石蕗つわぶき)” の例文
書斎の前の蘭は自ら土手より掘り来りて植ゑしもの。かわやのうしろには山吹やまぶき石蕗つわぶきと相向へり。踏石の根にカタバミの咲きたるも心にとまりたり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
このごろの季節では、蓼、りんどう、コスモス、芒、石蕗つわぶき、等々何でもよい、何でもよさを持っている。
白い花 (新字新仮名) / 種田山頭火(著)
母家おもやから別れたその小さな低い鱗葺こけらぶきの屋根といい、竹格子の窓といい、入口いりくちの杉戸といい、殊に手を洗う縁先の水鉢みずばち柄杓ひしゃく、そのそばには極って葉蘭はらん石蕗つわぶきなどを下草したくさにして
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これが石蕗つわぶきの葉か何かであると、形も大きいし、冬の季のものでもあるから、さほどのこともないけれども、花が咲いていてさえ見ばえのせぬシャガの、遺却されたような葉に時雨が降る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
これは零れ落ちるときが最もよい。下草でも茎の強いもので実や穂になつたものは、そのまま冬も刈らずに置くと却つて風雅なものである。石蕗つわぶきの花も枯れたまま置くと侘びた姿で春まで残つてゐる。
冬の庭 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)