疑惧ぎく)” の例文
三四郎は此時、じつと座に着いてゐる事の極めて困難なのを発見した。脊筋から足の裏迄が疑惧ぎくの刺激でむづ/\する。立つて便所に行つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
というのは、つづめていえば「参」つなぎの処世法によるのであって、ここにおいて又四郎としては或る程度の疑惧ぎくをもたざるを得なくなった。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして彼は恐ろしい疑惧ぎくと、絶望のふちに沈んでいる伯母を残したなり、口笛を吹きながら自分の「道場」へと立ち去った。
大きい眼を不安と疑惧ぎくに見開いたまま、可愛らしいものの譬えにまでされた「お静さんの弓なりの唇」からは、紅の色までサッと褪せてしまったのです。
僧徒らみずから私にいだきたる恐怖に、まのあたり面あえりしごとく、おのおの疑惧ぎくの眼を交う。間。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
こういう疑惧ぎくはまだ去らなかったが、年の暮には母も床上げの祝いをするようになり、また正月の下旬には、あによめの文代が女の子を産んだ。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)