物象もの)” の例文
祖父は根かぎり眼をみはつてゐたが、呪はしい睡魔が、執念く彼の眼の前の物象ものを曇らせてしまつた。
耳に風がうなり、睫毛まつげに霧が痛いほどぶつかッて後ろになる。地の物象ものすべて——町、森、原野、山波、渓流——点々たる部落の羊や牛の影までが見る見るあとへぎられて行く。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからまして本当の夜になると、彼女は大胆に垂れ布をかかげて、人をも物象ものをも見るのであった。そこでこの時も垂れ布をかかげて、やって来た人の姿を見た。と、若い女であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は彼の烈しい洞察がいつも物象ものの魂につき刺されるのに驚いた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)