煕々きき)” の例文
春日の永きにむ馬上の旅の様子がよく現れている。煕々ききたる春光の中を飛ぶ蝶の姿が、ありありと眼に浮んで来るような気がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
幸なる小野さんは一つの顔しか持たぬ。そびらを過去に向けた上は、眼に映るは煕々ききたる前程のみである。うしろを向けばひゅうと北風が吹く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
煕々ききとして照っていた春のはいつかはげしい夏の光に変り、んだ秋空を高くがんわたって行ったかと思うと、はや、寒々とした灰色の空からみぞれが落ちかかる。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それでクリストフが毎朝、引きしめようと努めながらもやはり煕々ききとした顔つきで劇場へやって来ると、異様な微笑を浮かべてその打ち明け話を迎えるのであった。