火除地ひよけち)” の例文
神田、鎌倉河岸から雉子橋きじばしぎわまで、ずっと火除地ひよけちで、二番原から四番原までのひろい空地は子供たちのいい凧あげ場になっている。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
祭りの赤い宵空に、夕月の映るを見ながら、竹屋河岸の酒屋の軒ばを出て、ぶら、ぶら、と火除地ひよけちの桐ばたけを、一角は、よろめいて行った。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大分後の話だけれども、秋葉の原が火除地ひよけちであった時分は、夏の月夜などに大和町辺の駄菓子職人の中から、咽喉自慢のどじまんの連中がやって来て、涼みながら唄をうたったものだという。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
折からちょうど平賀鳩渓が神田のお火除地ひよけちに於いて博物会をひらく催しがありますから、その会場の一隅に出陳しゅっちんして、これを広く世間の人々に見せるのです
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三坪ばかりな蓆囲いは暑そうに見えるが、裏口の一方を風入れに開けて、お火除地ひよけちの夏草から来る涼風をうけているので、他目はためで思うよりはしのやすいらしい。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し戻ると火除地ひよけちの桐の木畑がある。そこを通って、彼はもう半瓦の家へ戻ろうと考えていた。出鼻の不首尾ではあるし、お杉ばばがいないでは意味がない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘巻自斎の膺懲ようちょうに会って、浅草お火除地ひよけちの興行小屋を滅茶滅茶にされた投げ槍小六は、笊組ざるぐみの一門に面目ないと思ってか否か、その夜のうちに、お延、大月玄蕃
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お綱の影と一ツになって、バラバラと、淡島堂あわしまどうの石橋を越え、お火除地ひよけちの桐畑へと走って行った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加山と波越は、目で語りながら、火除地ひよけちの道を木蔭から木蔭へ縫っていた。江戸の火除地には、梧桐あおぎりがたくさん植え付けてあって、俗に、桐畠ともいうくらい樹が多かった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昌平橋際しょうへいばしぎわ火除地ひよけちにできた小屋がけの会場は毎日割れ返るような人出である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、火除地ひよけちへ、急いで来たが、案外な——という顔をして
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)