汐汲しおくみ)” の例文
翁が能静氏の門下で修業中、名曲「とおる」の中入なかいり後、老人の汐汲しおくみの一段で「東からげの潮衣——オ」という引節ひきふしの中で汐を汲み上げる呼吸がどうしても出来なかった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
汐汲しおくみ」の、「君にや誰かつげのくし、さし来る汐を汲もうよ汲み分けて」のところなどやかましく云って、「月は一つ影は二つ」でおけの中に月のある思いをせよと云ったこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いそへ出ると、砂を穿って小さく囲って、そこいらの燃料もえくさ焚附たきつける。バケツへ汐汲しおくみという振事があって、一件ものをうでるんだが、波の上へうっすりと煙がなびくと、富士を真正面まっしょうめんに、奥方もちっと参る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)