汁気しるけ)” の例文
それからまた、血のしたたる汁気しるけのある不思議な物がこしらえられる料理場もあり、ばかげた恐ろしいはなしをしてくれる老婢ろうひもいた……。ついに晩となる。
大したお金でしたわい! 乾した桜んぼだって、あのころは柔らかくてな、汁気しるけがあって、甘味があって、よい香りでしたよ。……あの頃は、こさえ方を知っていたのでな……
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
時間つぶしであり、まためいめい自分で知られる方がよいのだが、大体に日本人の食物などは、近世に入ってから追々と柔かくなり、甘くなり、且つ温かくて汁気しるけの多いものになってきている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの肥大な虫の汁気しるけという汁気はことごとく吸い尽くされなめ尽くされて、ただ一つまみの灰殻はいがらのようなものしか残っていなかった。ただあの堅い褐色かっしょくの口ばしだけはそのままの形をとどめていた。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
汁気しるけのあるものをことごとく乾鮭からさけにするつもりで吹く。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後者の人々は、味のよい和音、汁気しるけの多い連結、滋養分に富んだ和声、などばかりを問題にしたがっていた。あたかも菓子屋のうわさをでもするように、音楽のことを話していた。
吸物・あつ物をぜんの上に添えることが、款待かんたいのしるしとなったのもその結果で、他の民族でも同じことかと思うが、日本の食物が近世に入って、次第に温かいものまたは汁気しるけのものを多くしたのも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)