水沫すいまつ)” の例文
力を極めて漕ぐ櫂につれて、水沫すいまつがサッと翻えるのが、黎明の光に光って見える。見る見る短艇は近寄って来た。やがて窓の下で停止とまった。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と思うとまた、たき水沫すいまつがたちこめている岩層がんそうふちにそって、水面を注意ちゅういしながらかける宮内くないの小さいかげが見いだされた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スマ子女史はワイシャツの縫目からミス・フランセのコバルトの細巻をとりだして火をつけると、蒸気のこもった部屋に水沫すいまつのように緑色の煙を吐き出して
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
風に砕け散る波は不気味に彼をとり巻き、深海のうねりは彼を運び去り、あらゆる水沫すいまつは彼の頭のまわりにざわめき、無数の波は彼の上に打ちつけ、乱るる水の間に彼は半ばのまるる。
この大河の水は岩礁をいた水道のコンクリートのせきと赤さびた鉄の扉の上をわずかに越えて、流れ注いで、外には濁った白い水沫すいまつ塵埃じんあいとを平らかに溜めているばかりだ。何のもなくのどけさである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)