いびつ)” の例文
道頓堀川の暗い流れに、「オリンピア」のネオンサインの灯影がいびつになって、しきりに点滅していた。寒々としたながめだった。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私と妻とのこうしたいびつな気持は召使たちにも逸早く感ぜられたものであろう! 私がスープをすすりフォークを使っている間中
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
よしや形がいびつであっても、その人格が如実に出ていれば、上乗の円窓えんそうといわねばならない。円窓の本義は正歪せいわいに拠らない、その人であり、その力である。
二十三年の間、洗濯婦をやり、手のかたちをいびつにしていささかの貯えを残し、その貯金のためにランドリュに惨殺された五十一歳のギラン夫人にてた恋文は
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
現前を味わっている内に、成長すべきものが成長せず、いつか人格がいびつになって行きます。
すべての芽を培え (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いびつになった籐椅子とういすを並べて、楽屋用の新しい座布団を敷いただけのもので、リノリウムの床とスレスレの半円窓の近くにカラカラに乾いた枯水仙の鉢が置いてあるのが、薄暗い裸電球の下で
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
瓢箪形のいびつになって、網は沈んだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
低劣なる価値に没頭して一切の高き価値に無関心なる雰囲気においては、価値は明らかに逆倒せられ人類の意志はいびつにせられている。岸田君のいわゆる「世界の美術の病気」とはこれであろう。