棕梠箒しゅろぼうき)” の例文
世の中はどうでも勝手に棕梠箒しゅろぼうき。私は自分勝手に唯一人日和下駄ひよりげたきずりながら黙って裏町を歩いていればよかったのだ。議論はよそう。皆様が御退屈だから。
衣装も髪も馬も桜も一瞬間に心の道具立から奇麗きれいに立ち退いたが、オフェリヤの合掌して水の上を流れて行く姿だけは、朦朧もうろうと胸の底に残って、棕梠箒しゅろぼうきで煙を払うように、さっぱりしなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
満蔵は庭を掃いてる様子、姉は棕梠箒しゅろぼうきで座敷を隅から隅まで、サッサッ音をさせて掃いている。姉は実に働きものだ。姉は何をしたってせかせかだ。座敷を歩くたってひんぶってなど歩いてはいない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ところへ野だがすでに紀伊の国を済まして、かっぽれを済まして、たな達磨だるまさんを済して丸裸まるはだか越中褌えっちゅうふんどし一つになって、棕梠箒しゅろぼうきを小脇にい込んで、日清談判破裂はれつして……と座敷中練りあるき出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)