梵妻ぼんさい)” の例文
和尚は手槍てやりを小脇にかい込んで、忍び足に本堂の方へ行く。後には比丘尼びくに梵妻ぼんさい手燭てしょくそでにおおいながらついている。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
友人の紹介で梵妻ぼんさいあがりで小金こがねめていたその女の許へ金を借りに出入して関係しているうちに
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
漸く聞きつけたと見え、奥の方から五十二、三歳の梵妻ぼんさい風の老女が出て来て、私の前へ立った。
みやこ鳥 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
何処から見ても当り前な梵妻ぼんさいで、あまりにも当り前な当然でありすぎる為に、凝視めてゐると、危ふく変に懐しくて、フッとあの幼い「思ひ出」の中へ気を失つて迷ひ込みさうな……さう
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
続いて先代住職の形見なる梵妻ぼんさいもとかく病身の処これまた世を去り申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の女は考へた——さうすれば今間借りをして居る寺のあの西日のくわつと射し込む一室から涼しいところへ脱れられる。それよりもあの下卑た俗悪な慾張りの口うるさい梵妻ぼんさいの近くから脱れられる。
彼は絵札を出す時には、片手でトンとテーブルを叩いて、それがクイーンなら『さあ行け、老耄おいぼれの梵妻ぼんさいめ!』またキングなら『行っちまえ、タンボフ県の土百姓め!』などと捨台詞すてぜりふを言ったものだ。