たるき)” の例文
しかも大蛇は何匹となく、或ははりに巻きついたり、或はたるきを伝はつたり、或は又床にとぐろを巻いたり、室一ぱいに気味悪く、うごめき合つてゐるのであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
穀物をく臼は手で廻すのだが、余程の腕力を必要とする。一端を臼石の中心の真上のたるきに結びつけた棒が上から来ていて、その下端は臼の端に着いている。
焚火でくすぶった天井の大たるきからは籾俵が吊下っていた。黙って焔をふく焚火を眺めている者達の、大きく重なり合った影法師が板敷を這い、板戸の上で揺れながら延びたり縮んだりする。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたしはたるきのあいだと開いている天井窓てんじょうまどから、そのうす気味悪い小屋の中をのぞいてみました。七面鳥がはりの上でねむっていました。くらはからっぽの秣桶まぐさおけの中に入れて、休まされていました。
居酒屋の亭主は又ズツクを重ねた上に横になつて眼を光らせながら、いがみあふ酔たんぼを見張つてゐるのである。バルキスは塩魚が天井のたるきからぶら下つてゐるのを見て、連れにかう云つた。
バルタザアル (新字旧仮名) / アナトール・フランス(著)
それは髪をくくりつけた、三本のたるきが三本とも一時にひしげ飛んだ響であつた。しかし素戔嗚は耳にもかけず、まづ右手をさし伸べて、太いあめ鹿児弓かごゆみを取つた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
東屋あずまやたるき、縁側の手摺、笊、花生け、雨樋から撥釣瓶はねつるべにいたる迄、いずれも竹で出来ている。家内ではある種の工作物を形づくり、台所ではある種の器具となる。
旅人達が休み場として用いる無住の小舎で、私は初めて羽目やたるきに筆で日本文字の署名をしたのを見た。
のみならずふと気がついて見ると、彼の長い髪は三つに分けて、天井のたるきくくりつけてあつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)