柔嫩やはらか)” の例文
敬之進のことは一時いつときもお志保の小な胸を離れないらしい。柔嫩やはらか黒眸くろひとみの底には深い憂愁うれひのひかりを帯びて、頬もあか泣腫なきはれたやうに見える。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
野に満ちた光を通して、丑松は斯の労働の光景ありさまを眺めて居ると、不図ふと倚凭よりかゝつた『藁によ』のわきを十五ばかりの一人の少年が通る。日に焼けた額と、柔嫩やはらかな目付とで、直に敬之進のせがれと知れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お志保は何か言ひたいことが有つて、わざ/\自分のところへ逢ひに来たのだ、と斯う気が着いた。あの夢見るやうな、柔嫩やはらかな眼——其を眺めると、お志保が言はうと思ふことはあり/\と読まれる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)