木曾谷きそだに)” の例文
馬籠の本陣親子が尾張おわり藩主に特別の好意を寄せていたのは、ただあの殿様が木曾谷きそだにや尾張地方の大領主であるというばかりではない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
西南の日あたりを受けた傾斜の多い馬籠の地勢には竹林を見るが、木曾谷きそだにの奥にはその竹すら生長しないところさえもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
八月も半ばになりますと、つばめは木曾谷きそだにの空を帰って行きます。姉の家の門口かどぐちへもつばめはあいさつに来て
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
例の木曾谷きそだにの山林事件もそのころになれば一段落を告げるであろうし、半蔵のからだもいくらかひまになろうとは、春以来おまんやお民の言い合わせていたことである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの土蔵の二階は全部が書物庫しょもつぐらで、木曾谷きそだにの歴史を語る古文書や、じじののこした写本や、父が一生かかって集めておいた和書漢書の類はことごとく失われたのですから。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この父に言わせると、中津川あたりと馬籠とでは、同じ尾州びしゅう領でも土地の事情が違う。木曾谷きそだに三十三か村には福島の役人の目が絶えず光っていることを忘れてはならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木曾谷きそだにしも四宿の宿役人としては、しかしただそれだけでは済まされなかった。彼らは一度は恐縮し、一度は当惑した。多年の経験が教えるように、この街道の輸送に役立つ御伝馬おてんまには限りがある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)