ひかげ)” の例文
今のように早く電燈がつかないから、夕暮の色が漸く濃くなるまで、ひかげを惜しんで明るいところへ机を持出しているのではあるまいかと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
或日柏軒、抽斎、枳園等が榛軒の所に集つて治療の経験談にひかげの移るを忘れたことがある。此時終始緘黙してゐたのは抽斎一人であつた。それがをさなかえの注意を惹いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
可哀かはいい、不行儀な奴め。己はお前のお蔭で、生甲斐があるやうに思つてゐた。己の為めには時間が重苦しい歩き付きをしてならないのだが、あの女と付き合つてゐる間はひかげの移るのを忘れてゐた。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
ひかげはゆるやかに
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ひかげはもうヴェランダののきを越して、屋根の上に移ってしまった。さおに澄み切った、まだ秋らしい空の色がヴェランダの硝子戸を青玉せいぎょくのように染めたのが、窓越しに少しかすんで見えている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひかげぞ夢みぬる。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)