治承ちしょうの昔文覚上人もんがくしょうにんが何処の馬の骨だか分らないされこうべを「義朝よしとも髑髏どくろ」と称して右兵衛佐頼朝うひょうえのすけよりともに示した故智になら
何よりもず彼は力をつかもうとした。あの情人の夫を殺すつもりであやまって情人を殺してまでもなおかつ生きることの出来たという文覚上人もんがくしょうにんのような昔の坊さんの生涯の不思議を考えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この頃、箱根の別当の弟、永実から聞いたはなしに依ると、ここから二里ほど山へ這入はいった奈古谷なごやという小部落の寺に、高尾の文覚上人もんがくしょうにんという者が、罪を得て都から流されて来ている。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰でも一度は通過とおりこさねば成らないような女性に対する情熱をそれらの人達の若い時に結び着けて想像し、あの文覚上人もんがくしょうにんのような男性的な性格の人の胸に懸けられたという婦人の画像を想像し
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)