放肆ほしいまゝ)” の例文
谷底の石の間から湧く温泉の中へ吾儕は肩まで沈んで、各自めい/\放肆ほしいまゝに手足を伸ばした。そして互に顏を見合せて、寒かつた途中のことを思つて見た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あゝ声を揚げて放肆ほしいまゝに泣いたなら、と思ふ心は幾度起るか知れない。しかし涙は頬をうるほさなかつた——丑松は嗚咽すゝりなくかはりに、大きく口を開いて笑つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
学校から帰へつて、蓮華寺の二階へ上つた時も、風呂敷包をそこへ投出はふりだす、羽織袴を脱捨てる、直に丑松は畳の上に倒れて、放肆ほしいまゝな絶望に埋没うづもれるの外は無かつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左様さういふ風だから、後進の丑松に対しても城郭へだてを構へない。放肆ほしいまゝに笑つたり、嘆息したりして、日あたりの好い草土手のところへ足を投出し乍ら、自分の病気の話なぞを為た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)