攫徒すり)” の例文
貴娘あなた知らんのならお聞きなさい。頃日このごろの事ですが、今も云った、坂田礼之進氏が、両国行の電車で、百円ばかり攫徒すりられたです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大分、もう売って行ってほとんど出盛りのテッペンと思う頃、仕事をしに入り込んでいた攫徒すりの連中が、ちょうど私たちの店の前で喧嘩けんかを始めた。
糊口くちも糊口だが、糊口より先に、何か驚嘆にあたいする事件に会いたいと思ってるが、いくら電車に乗って方々歩いても全く駄目だね。攫徒すりにさえ会わない」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論何も取られてはいなかった。この攫徒すりは実際目先が見えぬのであった。なぜと云うに、末造は夫婦喧嘩をした日には、神経が緊張していて、不断気の附かぬ程の事にも気が附く。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「じゃ、まあ、知らないとして。それから、お話するですがね。早瀬は、あれは、攫徒すりの手伝いをする、巾着切きんちゃくきりの片割のような男ですぞ!」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口惜くやしいわ、攫徒すりの仲間だの、巾着切の同類だのって、貴郎あなたの事をそう云うのよ。そして、口を利いちゃ不可いけないって、学校の名誉に障るって云うのよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)