ほしいまゝ)” の例文
その上に、もつと悪いことには、名ばかりの妻として、ほしいまゝにした物質上の栄華が、何時の間にか、彼女の心に魅力を持ち始めてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
パノラマのやうな風光は、斯の大傾斜からほしいまゝに望むことが出來た。遠く谷底の方に、千曲川の流れて行くのも見えた。
烏帽子山麓の牧場 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
更に転じて西松浦の郡界に到れば、黒髪山くろかみやまほしいまゝに奇趣を弄ぶあり、巉巌ざんがんむらがり立てるはこれ正に小耶馬渓せうやばけい
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
幕府の代りに朝廷を戴いて、討幕の功績に対する恩賞をも受け、旧幕時代以上の威福をほしいまゝにしようと考へてゐた者も、絶無とは云ひがたいであらう。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これより先、足利尊氏は、京都に於てほしいまゝに幕府を開き、征夷大将軍と称し、子義詮よしあきら、孫義満相次いで政権を握つた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ほしいまゝに幕府を樹立したことは、やがて武士階級をしてその勢力を自覚せしめて、下剋上げこくじやうの姿を現はし幕府を蔑視し、自己の好悪利害の赴くまゝに行動して、隠謀叛乱の絶え間なからしめてゐる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)