情緒こゝろもち)” の例文
すゞしい、とはいへ涙にれたひとみをあげて、丑松の顔を熟視まもつたは、お志保。仮令たとひ口唇くちびるにいかなる言葉があつても、其時の互の情緒こゝろもちを表すことは出来なかつたであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
僅かに九歳こゝのつの昔、まだ夢のやうなお伽話とぎばなしの時代——他のことは多く記憶にも残らない程であるが、彼の無垢むく情緒こゝろもちばかりは忘れずに居る。もつとも、幼い二人の交際まじはりは長く続かなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)