悒々ゆうゆう)” の例文
間もなく病的に蒼褪あおざめたうすのような馬の大きな頭が、わたしの目路めじちかくに鼠色とはいえ明色ではない悒々ゆうゆうしい影をひいてとまった。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
啄木鳥きつつきの声が樹林に木精こだまし、深山にでもいるような気持がする。暮近い、暗い小道の落葉を踏みながら悒々ゆうゆうと歩いているうちに、急に涙が胸元に突ッかけてきた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
恩樹は、女の前でこう言っては、悒々ゆうゆうしているのは、生むものを生まないせいだよ、そう当らず触らず私に言っていた。そんなときでも、よい育ちをした恩樹の眼は静かに澄んでいたのである。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
笏梧朗はなにか考え込んでいたがふと悒々ゆうゆうした目をあげた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)