御誂おあつら)” の例文
「ところへもって来て僕の未来の細君が風邪かぜを引いたんだね。ちょうど婆さんの御誂おあつらえ通りに事件が輻輳ふくそうしたからたまらない」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
随って人工雪の場合においては勿論のことである。ところが丁度その頃北海道帝国大学内に、常時低温研究室という御誂おあつらえ向きのものが設置された。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ここはずっと町家ちょうかのない土塀どべい続きになっていますから、たとい昼でも人目を避けるには、一番御誂おあつらえの場所なのですが、甚内はわたしを見ても、格別驚いた気色けしきは見せず
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もう御誂おあつらえは……」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「出来るものなら三毛の代りに……」「あの教師の所の野良のらが死ぬと御誂おあつらえ通りに参ったんでございますがねえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうだろう。それでもまだ不服かい。不服なら——まあ、何とか云うよりも、僕の所まで来てくれ給え。刀もよろいもちょうど君に御誂おあつらえなのがある筈だ。うまやには馬も五六匹いる。」
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
板の高さは地面を去る約一メートルだから飛び上がるには御誂おあつらえの上等である。よろしいと云いながらひらりと身をおどらすといわゆる洗湯は鼻の先、眼の下、顔の前にぶらついている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)