御微行おしのび)” の例文
御微行おしのび——どころか、身分を隠しての逗留なので、江戸を出てから帰るまで、ああして白の弥四郎頭巾に、すっぽり面体を押し包んで。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この人がまだ普魯西プロシヤ王フレデリキ・ウイルレム四世の皇弟であつた一八四九年のある秋の日、御微行おしのびでライン河のかはぷちをぶらぶらしてゐた事があつた。
お殿様が御微行おしのびで、こんな破屋あばらやへ、と吃驚びっくりしましたのに、「何にもらない。南画のいわのようなカステーラや、べんべらものの羊羹なんか切んなさるなよ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お楽、——今日は御微行おしのびだから、何も御修業だとおっしゃる。地酒を一こん差上げてはどうじゃ」
「私もお迎えに参りたく思ったのですが、御微行おしのびの時にはかえって御迷惑かとも思いまして遠慮をしました。しかしまだ一日二日は静かにお休みになるほうがよろしいでしょう」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「祖父江出羽守の御微行おしのびだ。父とともに三国ヶ嶽の下の猿の湯へ行っておった娘は、どうした? どこにおる?」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「お樂、——今日は御微行おしのびだから、何も御修業だと仰しやる。地酒を一こん差上げては何うぢや」
山路主計やまじかずえ中之郷東馬なかのごうとうま、川島与七郎などという連中——身を持ち崩した田舎侍のようなつくりだが、皆これ出羽守お気に入りの家臣なので、こうして主君出羽の御微行おしのびの供をして
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)