庖廚ほうちゅう)” の例文
「さあさあ、追立おったてを食わないうちに、君子は庖廚ほうちゅうを遠ざかろう。お客様はそちらへ——ちょっとぼくは、ここの仏間というのへ御挨拶。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このとき戸口に人の声して、ほどなく庖廚ほうちゅうにありしエリスが母は、郵便の書状を持て来て余にわたしつ。見れば見覚えある相沢が手なるに、郵便切手は普魯西プロシヤのものにて、消印には伯林ベルリンとあり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
渠等かれらが妄執めいせず、帰せず、陰々たる燈火に映じて動出うごきいださんばかりなる、ここ屠犬児の働場はたらきばにして、地獄は目前の庖廚ほうちゅうたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸口に入りしより疲れを覚えて、身の節の痛み堪えがたければ、うごとくにはしごを登りつ。庖廚ほうちゅうを過ぎ、へやの戸を開きて入りしに、机に倚りて襁褓むつき縫いたりしエリスは振り返りて、「あ」と叫びぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)