庖刀ほうちょう)” の例文
さかなを切る庖刀ほうちょうで蛇を切られては困るとでも思ったか、娘は抗議をするような目附きをして主人の顔を見た。「好いよ、お前の使うのは新らしく買ってるから」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
今や口へほうり込んだと思うと、彼女は戸棚のほうへ飛んで行き、まだ庖刀ほうちょうも入れてない五斤分の花輪形パンをもって来て、それをいそいそと彼のほうに差し出した。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
西瓜の青い肌に庖刀ほうちょうを当ててすかりと切る。この庖刀はよく切れるのでなければならぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
雪は庖刀ほうちょうを入れたように并行に断裂して、その切截面の高さは、およそ二丈もあろう、右へ除け左へ避けて、思わずも雪の薄氷の上を行くと、パリパリと氷柱つららが折れるような音がするので
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
おどろくべき壮大なる石の屏風がそそり立って、側面の岩石は亀甲形に分裂し、背は庖刀ほうちょうの如く薄く、岩と岩とは鋭く截ち割られて、しかも手をかけると、虫歯のうろのようにポロポロと欠けるので
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)