山曲やまたわ)” の例文
細君が山曲やまたわ墾田はりだのそばを歩いている所を機銃で射たれた。他にも大勢やられたのがあってなかなか火葬の順番がこない。
骨仏 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
飯島では、まだ百日紅さるすべりの花が咲いているというのに、北鎌倉の山曲やまたわではすすきの穂がなびき、日陰になるところで、山茶花さざんかつぼみがふくらみかけている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
家の中にまで入りこんで女子供をさらい、山曲やまたわ川隈かわくまの人目につかぬところに竈をこしらえ、十人くらいも車座になって、恣に食らい競うという風であった。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山曲やまたわのありふれた盆踊を見たって面白いこともないのだが、所在がないので、では、行って来ようかと前壺のゆるんだ棕梠しゅろの鼻緒の古下駄を曳きずりながら宿を出た。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
犬養ノ善世はもとは鬼冠者といい、伊吹山にいた群盗の一味で、首の傷こそは、五年ほど前、山曲やまたわの暗闇で泰文とやりあい、腰刀をうちこまれたものだということだった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
入谷津いりやつ山曲やまたわで年五十石の上りのある田地を買って小さな家を建て、大炊介を一人でそこに住まわせ、「生涯、俺の子であることを口外してはならぬ、青山大炊介と名乗っておけ」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うちあけ話を聞くと、犬養ノ善世はもとは鬼冠者といい、伊吹の山にいた群盗の一味で、首の傷は五年ほど前、山曲やまたわの暗闇で泰文とやりあい、腰刀をうちこまれたものだということだった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
周平の住んでいる紅ヶ谷のあたりは北と東に山があり、西南が海にむいてひらいている関係で、鎌倉のうちでもとりわけ暖かく、南さがりになった山曲やまたわの日だまりで二月のうちにすみれが咲く。
春の山 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)