十歳とう)” の例文
先々代の姪の子で、十歳とう孤児みなしごになったお夏に、佐渡屋の女主人や娘達、奉公人達まで殺す動機があろうとも思われません。
お杉は重蔵に比べると、殆ど十歳とうばかりの姉であったが、何時いつこの二人がなれ馴染なじんで、一旦は山の奥へ身を隠した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが、九歳ここのつ十歳とうの時、大地主の白井様が盛岡から理髪師とこやを一人お呼びなさるといふ噂が、恰も今度源助さんが四年振で来たといふ噂の如く、異様な驚愕おどろきを以て村中に伝つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『え、それがどうした? やっぱり解らんじゃあないか? この穴は横が七八寸で縦が一尺五寸ばかりしかない。とても普通の女がこれだけの間から通れるものじゃあない。いくら痩せていても高々十歳とうまでの子供がやっと通れるくらいじゃあないか!』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「お早やう、——と言ひてえが、もう晝過ぎだぜ。それにしても、大層な變りやうだなお葉さん。女は化物だといふが、全く十歳とうは若く見えるぜ」
平次は妙に義憤ぎふんに燃えます。評判の惡い山崎屋勘兵衞だけなら兎も角、何にも知らぬ、十歳とうの少年を殺したのは、どんな動機があつたにしても許して置けない氣持だつたのです。
持つて居る筈はありません。尤も、伜の勘太郎はお守と迷子札まひごふだを入れた巾着を持つて居りましたが、十歳とうにもなつて、迷子札でもあるまいと、近頃は巾着ごと納屋の用箪笥ようだんすへ入れてある筈で——
隱居勘兵衞のくわんを据ゑて、型の如く飾つた奧の八疊の隣、納戸代りに使つて居る長四疊には、當主勘五郎の伜勘太郎、たつた十歳とうなつたばかりの一粒種が、無慙むざんな死骸になつて横たはつて居たのです。