勤行おつとめ)” の例文
宵の勤行おつとめかねの音は一種異様な響を丑松の耳に伝へるやうに成つた。それは最早もう世離れた精舎しやうじやの声のやうにも聞えなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
朝の勤行おつとめの鐘のも、ゆうべいのりの鐘のひびきも満ちあふれるようなよろこびを告げる、春。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鷹匠町の下宿近く来た頃には、かねの声が遠近をちこちの空に響き渡つた。寺々の宵の勤行おつとめは始まつたのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
界隈かいわいの寺院では勤行おつとめの鐘が鳴り始めた。それを聞くと夕飯の時刻が近づいたことを思わせる。捨吉は学校の広い敷地について、亜米利加風な講堂の建物の裏手のところへ出た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よひ勤行おつとめも終る頃で、子坊主がかん/\鳴らすかねの音を聞き乍ら、丑松は蓮華寺の山門を入つた。上の渡しから是処迄こゝまで来るうちに、もう悉皆すつかり雪だらけ。羽織の裾も、袖も真白。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)