前簾まえすだれ)” の例文
その男の顔がさっと変ったとき、前簾まえすだれのすき間から月のように匂う生絹の顔をちらと見入った。生絹もその時不幸な一瞥いちべつを合わせたのであった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
町はずれの住んだ家に来て見れば母屋づくりの立派な一棟ひとむねのなかから、しょう吹く音いろがきこえ、おとなうことすらできなかった。近くの家々の人も、網代車あじろぐるま前簾まえすだれの中の生絹の顔を見ることがなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)