其処そのところ)” の例文
旧字:其處
男尊女卑の陋習ろうしゅうに安んじて遂に悟ることを知らざるも固より其処そのところなり、文明の新説を聞て釈然たらざるも怪しむに足らずといえども、今の新日本国には自から新人の在るあり
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたくしは散歩したいにも其処そのところがない。尋ねたいと思う人は皆先に死んでしまった。風流絃歌の巷も今では音楽家と舞踊家との名を争う処で、年寄が茶をすすってむかしを語る処ではない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
琵琶滝を過ぎ、かねて聞く狂人のさまを一見し、かつは己れも平生の風狂を療治せばやの願ありければ、折れて其処そのところくだるに、聞きしに違はず男女の狂人のさま、見るもなか/\にすごくあはれなり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
吉原田圃の全景を眺めるには廓内京町くわくないきやうまち一二丁目の西側、お歯黒溝に接した娼楼の裏窓が最も其処そのところを得てゐた。この眺望は幸にして「今戸心中」の篇中に委しく描き出されてゐる。即ち次の如くである。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)