伝法でんぼう)” の例文
旧字:傳法
高い階段はしごだんを上ってゆくと、柳沢はあのさい体格からだに新調の荒い銘仙めいせんの茶と黒との伝法でんぼう厚褞袍あつどてらを着て、机の前にどっしりと趺座あぐらをかいている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
下町気質したまちかたぎよりは伝法でんぼうな、山の手には勿論縁の遠い、——云わば河岸のまぐろすしと、一味相通ずる何物かがあった。………
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええ。だけれど、江戸の伝法でんぼう肌だけに気が強くて、大事な用を帯びているのだから、是非、親分を呼び返してくれ、後生だ、頼みだ、と夢中むちゅうにまでいっているのだよ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みよりの琴の師匠をたよって来て芸者となった伝法でんぼうな、気っぷのよい、江戸育ちの歯ぎれのよいのが、大きな運をかけてかかる投機的の人心に合って、彼女はめきめきと売り出した。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)