享受きょうじゅ)” の例文
ひとつの、革新期をまたぐには、必然な区分だが、人間個々の心理には、“時”の自然力にたいする不平と反撥を、素直に享受きょうじゅしきれない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもこの刺激は前に述べた条件にもとづいて、ある具体、ことに人間を通じて情があらわるるときに始めて享受きょうじゅする事ができるのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悲劇も喜劇も道化も、なべて一様に芝居と看做みなし、之を創る「精神」にのみ観点を置き、あわせて、之を享受きょうじゅせらるるところの、清浄にして白紙の如く
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
自分だに、信念と徳を示せば、彼らはよろこんで、艱苦を享受きょうじゅするにちがいない。むしろ清新な希望をかかげ、民心に、艱苦せよということであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人は多くの場合においてこの矛盾をおかす。彼らは幸福に生きるのを目的とする。幸福に生きんがためには、幸福を享受きょうじゅすべき生そのものの必要を認めぬ訳には行かぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さきの後嵯峨のむりな御作為も、御自身、少しでも長く、院政の権栄を、享受きょうじゅしていたいためにほかならない。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この快楽は生に向って進むに従って分化発展するが故に——この快楽は道義を犠牲にして始めて享受きょうじゅし得るが故に——喜劇の進歩は底止ていしするところを知らずして、道義の観念は日を追うてくだる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人は知らず、ここは死を笑って享受きょうじゅできる人間たちだけで坐ろうとしている菩提ぼだい一山いっさんなのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして津々浦々の士民までみな、ここの士民と等しい生活を享受きょうじゅするようになるだろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)