不貞不貞ふてぶて)” の例文
すぐまた反対の側から同様のを続けてくらうと出かかった悲鳴も声にはならず、もう不貞不貞ふてぶてしい覚悟でさらに飛び散る弾の中を踊りくぐってゆくのだった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
笹木光吉は不貞不貞ふてぶてしく無言だった。大江山警部はこの場の有様と、帆村探偵の結論が大分喰いちがっているのを不審ふしんがる様子でチラリと帆村探偵の顔色をうかがった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三十も半ばすぎの康子は、もう女学生の頃の明るい頭にはかえれなかったし、澄んだ魂というものは何時いつのまにか見喪みうしなわれていた。が、そのかわり何か今では不貞不貞ふてぶてしいものが身に備わっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「発車か、何んでも来い」と定雄は不貞不貞ふてぶてしい気になって起き上った。彼は坂道を駅の方へ馳け登って行く千枝子と清の背中を眺めながら、後から一人遅れて歩いていった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
五十男は、不貞不貞ふてぶてしい面つきで、ノッソリ中へ入ってきた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)