一膳飯屋いちぜんめしや)” の例文
私はこうしたありのままの昔をよく思い出す。その半鐘のすぐ下にあった小さな一膳飯屋いちぜんめしやもおのずと眼先に浮かんで来る。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金博士の住居は、南京路でも一等値段がやすく、そして一等繁昌はんじょうしている馬環ばかんという下等な一膳飯屋いちぜんめしやの地下にあるのだ。
其處そこ一寸ちよつとした町になつてゐて、荒物屋や呉服屋のやうなものも見えた。一膳飯屋いちぜんめしやと下駄屋とが並んでゐて、其の前にはからの荷車や汚い人力車がてゝあつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ある時の彼はまた馭者ぎょしゃや労働者と一所に如何いかがわしい一膳飯屋いちぜんめしやかたばかりの食事を済ました。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だにってまた空腹に立ち戻ったと説明したら善くみ込めるだろう。さて空腹にはなったが、最後の一膳飯屋いちぜんめしやはもう通り越している。宿しゅくはすでに尽きかかった。行く手は暗い山道である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)