一応いちおう)” の例文
旧字:一應
逆に云へばかう云ふ風に自然が見えればこそ、かう云ふ画が此処ここに出来上つたのだから、一応いちおう至極しごく御尤ごもつともである。
西洋画のやうな日本画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この方面で知名の熟練の医師のところへ彼を同伴して、一応いちおうその医師の意見を聴くことにした。
三右衛門はちょっと云いよどんだ。もっとも云おうか云うまいかとためらっている気色けしきとは見えない。一応いちおう云うことの順序か何か考えているらしい面持おももちである。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一応いちおうは気の毒に思っていても、その気もちを露骨に表わすことは嫌っているらしい話しぶりだった。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
現に遭難民さうなんみんの話を聞いて見給へ。思ひのほか芸術的なものも沢山たくさんあるから。——元来芸術的に表現される為にはまづ一応いちおう芸術的に印象されてゐなければならない筈だらう。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「芥川龍之介と来た日には大莫迦おおばかだわ!」何と云うお転婆てんばらしい放言であろう。わたしは心頭に発した怒火を一生懸命におさえながら、とにかく一応いちおうは彼女の論拠に点検を加えようと決心した。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)