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ひとかこ
紫の
幕が、信長と蘭丸だけのいる
一囲いを、めぐっていた。近習の多くはみな
艫の方に陽の直射を浴びている。川舟なので
屋形は小さかった。
その側から、兵は、幕を
展げて、附近の松の木や
合歓の木の幹へ張り
繞らし、それのない所には、
幕杭を打ち込んで、またたくうちに
一囲いの幕屋を作った。
二人とも、
呼吸をのんだ。そこの大銀杏から小半町先の
一廓いに、
館構えが見え、古びた
殿作りの屋根が、墨で
刷いたように、赤松の
梢と、
築地の蔭に、沈んでいる。それはいい。