トップ
>
長押
>
なげし
ふりがな文庫
“
長押
(
なげし
)” の例文
「父は掃除がやかましくて、障子の
棧
(
さん
)
や、
長押
(
なげし
)
の上を一々指で撫でて見る人でした。現に昨日もその欄間をよく
掃除
(
さうぢ
)
させたばかりで」
銭形平次捕物控:175 子守唄
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
むかし、尾崎紅葉もここへ泊ったそうで、彼の金色夜叉の原稿が、立派な額縁のなかにいれられて、帳場の
長押
(
なげし
)
のうえにかかっていた。
断崖の錯覚
(新字新仮名)
/
太宰治
、
黒木舜平
(著)
眼を閉じて、ややしばらく頭を垂れていたが、やがて立上ると、包を背にくくりつけ、
長押
(
なげし
)
の
薙刀
(
なぎなた
)
を取下ろして玄関へ出ていった。
三十二刻
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
二人の客はいつも来る人と見えて、何か親しげに子供に物を言ふ。主客とも雨覆を脱いで
長押
(
なげし
)
の
釘
(
くぎ
)
に掛けて、奥に這入つて行つた。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
長押
(
なげし
)
の額面の文字を眺めて居る位の感じで、自由と云ふ文字を遠くに置いて之を
惝悦
(
しようきよう
)
して居たのである。今はそれが現実となつた。
逆徒
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
▼ もっと見る
長押
(
なげし
)
の上には香川
景樹
(
かげき
)
からお婆さんの
配偶
(
つれあい
)
であった人に宛てたという
歌人
(
うたよみ
)
らしく達者な筆で書いた古い手紙が額にして掛けてある。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
世にも悲しい泣く音が
洩
(
も
)
れると、白い細い手が柱から壁、壁から
長押
(
なげし
)
と撫で廻しては、最後にまた絶え入るばかり、よよと泣き沈む……
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そして廊下へ出て行きますと、先に出た馬春堂が、何か奇妙な虫でもに見付けたような顔をして、入口の
長押
(
なげし
)
に眉をしかめているので
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
また
上京
(
かみぎょう
)
の寝殿の
長押
(
なげし
)
にい崩れて、
柔媚
(
じゅうび
)
な東山を背にし、清澄な
鴨川
(
かもがわ
)
の水をひき入れた庭園に、
恍惚
(
こうこつ
)
としてながめ入る姿を描くのである。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
権六は
長押
(
なげし
)
に掛けられてある
重籘
(
しげどう
)
の弓を取り下ろすと、
鏑矢
(
かぶらや
)
雑
(
まじ
)
えて矢三筋弓に添えて小脇に抱え、つと駈け抜けて先頭に立った。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
しかし画架からはずして
長押
(
なげし
)
の上に立てかけて下から見上げるとまるで見違えるような変な顔になっているのでびっくりする。
自画像
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
冷蔵庫の上部の
長押
(
なげし
)
との間にはいくらか隙間があって、そこに電灯の笠を引っ張ってきてあって、その明りが台所と湯殿の両方を照らした。
生い立ちの記
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
長押
(
なげし
)
に
衣紋
(
えもん
)
かけで釣り下げられている下町風な柄の洋服と商人風の羽織。「
穢
(
けが
)
されたものだ」わたくしは怒りに眠たさも覚めてしまいます。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その当時の能楽は全く
長押
(
なげし
)
の
槍
(
やり
)
、
長刀
(
なぎなた
)
以上に無用化してしまって、誰一人として顧みる者がなかったと云っても決して誇張ではないであろう。
梅津只円翁伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
咄嗟にそこの
長押
(
なげし
)
から短槍はずし取って
青江流
(
あおえりゅう
)
手練
(
てだ
)
れの位取りに構えながら威嚇したのは、九十一の老神官の沼田正守です。
旗本退屈男:08 第八話 日光に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
長押
(
なげし
)
にかけてある手槍の鞘を払って、台所の方へ出てみると、一つの黒い影が今や雨戸をあけて出ようとするところでした。
三浦老人昔話
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
長押
(
なげし
)
の下の壁の
上塗
(
うわぬり
)
が以前から一ところ落ちていて、ちょうど
俯伏
(
うつぶせ
)
になった人間の顔の恰好をしていたのが、今日はいつもより大きく見える。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
柱にかけた鏡の上に飾ってあるバラの造花、ビール箱を四つ並べた寝台の頭上の
長押
(
なげし
)
に、遠慮深くのせられてある三寸ばかりのキリストの肖像。
街
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
私の絵図はなってませんが、台所でも座敷でも天井が高く
長押
(
なげし
)
は大きくいずれも時代の
煤
(
すす
)
を帯びて十畳ぐらいの広さはありそうに思われました。
棚田裁判長の怪死
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
窓のあけかたや、
長押
(
なげし
)
の壁に日時計をつけたところなどをみると、南
瑞西
(
スイス
)
のモン・フォールの
山小屋
(
キャバーヌ
)
をまねてつくったものだということがわかる。
キャラコさん:02 雪の山小屋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
と言い、薫は縁側から一段高い
長押
(
なげし
)
に上半身を寄せかけるようにして
坐
(
ざ
)
しているのを見て、例の女房たちが
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
底に籠の附いた四季袋に持ち添へ、
長押
(
なげし
)
の釘に掛けてあつた
洋傘
(
パラソル
)
をも取り下ろして、ツカ/\と歩きかけた。
兵隊の宿
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
希
(
ねが
)
うことならいま籠釣瓶の鞘払って、床柱といわず、
長押
(
なげし
)
といわず、欄間といわず、そこらのもの片っ端から滅多斬りに斬りまくってしまいたいくらいだった。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
此奴
(
こいつ
)
容易ならぬ曲者なりと、平林は手早くも玄関の
長押
(
なげし
)
に懸けてありました鉄砲へ
火縄
(
ひなわ
)
を
挟
(
はさ
)
み、文治へ筒口を向けましたから、文治は取って押えた両人を
玉除
(
たまよけ
)
に
翳
(
かざ
)
し
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
八畳の一間で、
長押
(
なげし
)
の釘には
古袴
(
ふるばかま
)
だの三尺帯だのがかけてある。机には生徒の作文の朱で直しかけたのと、かれがこのごろ始めた水彩画の写生しかけたのとが置いてあった。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
胴丸
(
どうまる
)
に積もる
埃
(
ほこり
)
の
堆
(
うづたか
)
きに目もかけず、名に負へる
鐵卷
(
くろがねまき
)
は高く
長押
(
なげし
)
に掛けられて、螺鈿の櫻を散らせる黒鞘に
摺鮫
(
すりざめ
)
の
鞘卷
(
さやまき
)
指
(
さ
)
し添へたる
立姿
(
たちすがた
)
は、
若
(
も
)
し我ならざりせば
一月前
(
ひとつきまへ
)
の時頼
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
そこの
長押
(
なげし
)
に懸けてあった、古い額の、表装の破れ目から、ぐっと押こんで、一寸見たのでは少しも分らぬ様にして置いて、何食わぬ顔で、そのまま自宅に立帰ったのである。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
本堂も
庫裡
(
くり
)
も
何時
(
いつ
)
の建築だか、随分古く成つて、
長押
(
なげし
)
が
歪
(
ゆが
)
んだり壁が落ちたり
為
(
し
)
て居る。
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
御殿
(
ごてん
)
の
玄関
(
げんかん
)
は
黒塗
(
くろぬり
)
りの
大
(
おお
)
きな
式台
(
しきだい
)
造
(
づく
)
り、そして
上方
(
うえ
)
の
庇
(
ひさし
)
、
柱
(
はしら
)
、
長押
(
なげし
)
などは
皆
(
みな
)
眼
(
め
)
のさめるような
丹塗
(
にぬ
)
り、
又
(
また
)
壁
(
かべ
)
は
白塗
(
しろぬ
)
りでございますから、すべての
配合
(
はいごう
)
がいかにも
華美
(
はで
)
で、
明朗
(
ほがらか
)
で
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
長押
(
なげし
)
に
槍
(
やり
)
、
塀
(
へい
)
に鉄砲、
笠
(
かさ
)
、
蓑
(
みの
)
など掛けてある。舞台の右にかたよって門がある。外はちょっとした広場があって通路に続いている。雪が深く積もって道のところだけ低くなっている。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
安川の書斎の隅には
長押
(
なげし
)
と長押に桟を渡して、ちよつとした物を吊すやうなぐあひに作つたものがあるのだが、彼はそこへ
兵児帯
(
へこおび
)
を張つて首をくくつた。さうして彼は死んでしまつた。
老嫗面
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
その年の秋、御大典祝の飛行機が街の上を低く飛んで行った。父はフロックコートを着て、紀念の写真を撮った。その写真は父の死後引伸しされて、仏間の
長押
(
なげし
)
に掲げられたのだった。
昔の店
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
壁の
長押
(
なげし
)
や、障子の桟や、取り散した書棚や、或は夜更しをしすぎて何時になれば寝るものともきまらない夫を勝手にさせて自分だけ先づ眠つて居る彼の妻の
蚊帳
(
かや
)
の上のどこかなどへ
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
初重の仕形だけのもあり、二手先または三手先、
出組
(
だしぐみ
)
ばかりなるもあり、雲形波形唐草
生類彫物
(
しやうるゐほりもの
)
のみを書きしもあり、何より彼より面倒なる真柱から
内法
(
うちのり
)
長押
(
なげし
)
腰長押切目長押に半長押
五重塔
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
越後の中部ではこの日の行事に、米の粉を練って
小狗
(
こいぬ
)
の形をこしらえて戸の
棧
(
さん
)
に飾り、または十二支の形を作り
鴨居
(
かもい
)
長押
(
なげし
)
に引掛ける習わしがあり、犬の子正月の名はこれに基づいている。
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
長押
(
なげし
)
の下に火を寄せて「
篇
(
へん
)
つぎ」の遊びをやっていた女房たちは、彼女を見ると、「ああ嬉しい、早くいらっしゃい」などと言って歓迎するが、しかし中宮がもう寝室にはいっていられるので
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
長押
(
なげし
)
に「
比翼連理
(
ひよくれんり
)
」という横額がかゝっている。
墨痕
(
ぼっこん
)
未
(
ま
)
だ新しい。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
かれは即座に心をきめた、火桶の火を埋め、身支度を直し、久しく
長押
(
なげし
)
に掛けたままの愛槍をとり下ろすと、燈火を消して住居を出た。
足軽奉公
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
取卷く人達を
顧
(
かへり
)
み
乍
(
なが
)
ら、平次は床の間に登つて、
狆潜
(
ちんくゞ
)
りの
框
(
わく
)
へ足を掛けると、
長押
(
なげし
)
に片手を掛けて、床の間の天井の板を押して見ました。
銭形平次捕物控:002 振袖源太
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
金砂子
(
きんすなご
)
の袋戸棚、
花梨
(
かりん
)
の
長押
(
なげし
)
、うんげんべりの畳——そして、
淡
(
あわ
)
き
絹行燈
(
きぬあんどん
)
の光が、すべてを、春雨のように濡らしている……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
委細をすっかり聞取ってしまって、その最後のみやげが、あの
長押
(
なげし
)
に貼った二枚の番附だけの
獲物
(
えもの
)
で充分に甘心して出て来たものと思われる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼はまた、酒の上のきげんのよい心持ちなぞから、表玄関の
長押
(
なげし
)
の上に掛けてある古い二本の鎗の下へ
小忰
(
こせがれ
)
を連れて行って
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
それから帰って身支度をして、
長押
(
なげし
)
にかけた
手槍
(
てやり
)
をおろし、
鷹
(
たか
)
の羽の紋の付いた
鞘
(
さや
)
を払って、夜の明けるのを待っていた。
阿部一族
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
が、そこには明るく
洋灯
(
ランプ
)
が輝いて、
長押
(
なげし
)
の隅々、床の間、相変らずどこに何一つの変ったところもないのでございます。
蒲団
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
畳の上には汚れ
除
(
よ
)
けの渋紙が敷き詰めてある、
屏風
(
びょうぶ
)
や
長押
(
なげし
)
の額、床の置ものにまで
塵除
(
ちりよ
)
けの布ぶくろが
冠
(
かぶ
)
せてある。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
床脇の
長押
(
なげし
)
に、一尺ほどの長さの薄赤いネオン燈がついているほか、灯影はなく、霊媒の顔がぼんやりと浮きあがっている闇の中で、トホカミエミタメ
雲の小径
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
お婆さんの部屋の
長押
(
なげし
)
にはその人の肖像が額にして
懸
(
か
)
けてある。私は一言か二言の中にその人の
俤
(
おもかげ
)
や生涯が
彷彿
(
ほうふつ
)
としてくるような言葉をきくのが好きだ。
犬の生活
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
居間
長押
(
なげし
)
釘隠し等は、金銀無垢にて作り、これは銀座の者どもより、賄賂として取り候ものの由、不届き至極。
十二神貝十郎手柄話
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
槍
(
やり
)
かあるいは槍といっしょに
長押
(
なげし
)
にかかっていた
袖
(
そで
)
がらみのようなものかを持ち出して意気込んでいたが
亮の追憶
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
潔斎所の空気に威圧されながらも御簾の中へ上半身だけは入れて
長押
(
なげし
)
に源氏はよりかかっているのである。
源氏物語:10 榊
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
“長押”の解説
長押(なげし)とは、日本建築に見られる部材で、柱を水平方向につなぐもの。鴨居の上から被せたり、柱間を渡せたりするように壁に沿って取り付けられる。
(出典:Wikipedia)
長
常用漢字
小2
部首:⾧
8画
押
常用漢字
中学
部首:⼿
8画
“長押”で始まる語句
長押作
長押附