遥々はるばる)” の例文
「ここは寝室ではございませんか。遥々はるばる参られた里のお客様を、このような所へお通しするとは、何んという失礼でございましょう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
里馴れたものといえば、ただ遥々はるばるなわてを奥下りに連った稲塚の数ばかりであるのに。——しかも村里の女性の風情では断じてない。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山犬などの毛皮を携へて遥々はるばる前橋まで集まつてきたが明治になつてからはこれを神戸の商館へ持ち込んで外国へ輸出してゐる。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
ふところに抱く珠の光りをに抜いて、二百里の道を遥々はるばると闇の袋より取り出した時、珠は現実の明海あかるみに幾分か往昔そのかみの輝きを失った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「——お取次ぎをたまわれ。遥々はるばる奥州みちのくより駈け下って参った弟の九郎です。兄頼朝へ、九郎が参ったと、お伝え下されませ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず、ロッテナム美人術というものが、実にただお兄上を狂人に仕立てる目的のために遥々はるばる日本へよばれてきたものでした
遥々はるばると夢を見る気持で、どことなく流れて行く、高い塔、赤い煉瓦れんが造りの家、光る海……それらを見ることが出来た。……
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
奈良田の湯まで看病に行った時の熱が冷めないでいるならば、遥々はるばるかけた呼出しに応じないというはずはありません。お徳の目的はわかりました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本が好きで遥々はるばる独乙から、やつて来てペン画をいてる、フリードリッヒ・グライルといふのがやつて来たからだ。
散歩生活 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
翌朝は遥々はるばると、下北沢の親戚しんせきの家に厄介になりにいった。老母をリヤカーに乗せ、これを押しながら妻や子供は焼土しょうどの町を行く。これは先発隊である。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
——いや小生しょうせいはこのたびぜひとも博士せんせいにお願いをして、毒瓦斯どくガスをマスターいたしたいと決心しまして、そのことで遥々はるばる南海の孤島ことうからやって参りました
カステラ一箱持って遥々はるばる錦城館のお富(この艶婦の事は、昨年四月一日の『日本及日本人』に出でおり艦長などがわざわざ面を見に来るとて当人鼻高し)
百歩をへだてて柳葉りゅうようを射るに百発百中するという達人だそうである。紀昌は遥々はるばる飛衛をたずねてその門に入った。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
露国のマキシモヴィッチ氏はこれに対し非常に中の図が正確であるといって、遥々はるばる絶讃の辞を送ってきた。
島尻の真壁村の伊敷の城主が大和へ瓦その他の品物を買いにやったとあるから、古くは沖縄では瓦を買うために遥々はるばる日本本土まで出かけたということがわかった。
土塊石片録 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
其処には先きにいったように遥々はるばるとした大洋があった。あの光のない、ただ明るいだけの波濤の連続が。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
遥々はるばるこの岩屋島を訪れたのも、深く思えば、私の為でもなく、初代の復讐などの為では無論なく、その実は、親子という絆のさせた業であったかも知れないのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから湖のもくもくから遥々はるばる採って来た柳のひげ根の消毒したものを大事そうになわはさんで沈めた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なぜだろう? なぜ彼は遥々はるばる友を訪問して戸を叩くことが出来ないのだろう? 叩いたからと云ってとがめられるのでもなければ彼が叩こうとする手を止めるのでもない
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
ところが生憎あいにく不漁しけで休みの札が掛っていたので、「折角暴風雨あらしの中を遥々はるばる車を飛ばして来たのに残念だ」と、悄気返しょげかえってしきりに愚痴ったので、帳場の主人が気の毒がって
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
遥々はるばる太子の後を慕ってボンベイから日本へ来朝したばかりの身の上だということなのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
遥々はるばると是を一処に寄せ集めた、人間意力のたくましさには感動するが、是を大昔の世の常と見、今ある離れ小島の竹玉ツシ玉、貝や木の実を珠に貫くわざを、零落れいらく退歩の姿
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何をいうにも内地から遥々はるばるの海上を吾輩が自身に水先案内パイロテージして、それぞれの漁場に居付かせてやった、吾児わがこ同然の荒くれ漁師どもだ。その可愛さといったら何ともいえない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ず初め、層々とそびえている峰巒ほうらんすがたが現れた。その山が尽きる辺から、落葉し尽くした疎林そりんが淡々と、浮かんでいる。疎林の間には一筋の小径こみちが、遥々はるばると遠く続いている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
実は、どうもあまり気がすすまなかったのであるが、せっかくわざわざ傍聴券を手に入れて、そうして遥々はるばる迎えにまで来てくれたのだから、勉強してともかくも出掛ける事にした。
議会の印象 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
持っているさればどこのだれ氏の家にはしかじかの名鳥がいると云うことになれば鶯をっている者は我が鶯のために遥々はるばるとその名鳥のもとを訪ね啼き方を教えてもらうこの稽古を声を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
綾麻呂 衛門! 長い旅路を遥々はるばるここまでやって来た甲斐かいがあったろう? ん?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
この絵は宋初そうしょのものとされているので、本当の玄奘三蔵げんじょうさんぞう法師が、とう太宗たいそう貞観じょうがん三年に長安ちょうあんの都を辞して、遥々はるばる印度への旅についた頃から見ると、三百年くらいも後に描かれたことになる。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その噂を聞いて、私は遥々はるばる支那から帰って来たのです。私も殺されるかも知れませんが、殺されるまでに、お母様や伯父様やお姉様の志を継いで、この城趾の謎を解かなければならないんです
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あるい遥々はるばるこの寺を訪れた旅人が、仏前へまいる前に、しばし身を寄せかけてあたりの風光をめでたのではなかろうか。乃至ないしはこのかげに身をひそめて恋人を待つ平城の男女があったかもしれぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それでも母はくじけることなく、ドミトリを大学に入学させたいと思って、トボルスクから遥々はるばるとモスクワを目指して旅に出ました。そしてモスクワに到着して、大学の入学試験を受けさせました。
メンデレーエフ (新字新仮名) / 石原純(著)
何里歩行あるいたとも分らぬ気がして、一まわり、足をって、手探りに遥々はるばると渡って来ますと、一歩上へ浮いてつく、その、その蹈心地ふみごこち
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
修吉が北越山中の秋山家を訪ねたとき、あたかもそれを見るために遥々はるばるやつてきたやうに、まづ仏像のことを尋ねた。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
越前から柴田勝家の使いが、荷駄行装にだこうそうに北国の雪をかぶって、遥々はるばるこれへ着いたのは、十二月の十一日であった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「遠方より来るは、こっちの言い分だ、君が遥々はるばる江戸から来てくれたんだから、これから僕が大いに飲ませるよ」
とさも無雑作むぞうさに云っちまった。ちょうど炭屋が土釜どがまを台所へかつぎ込んだ時のように思われた。人間が遥々はるばる山越やまごえをして坑夫になりに来たんだとは認めていない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはかつて欧洲大戦のみぎり遥々はるばる欧洲の戦場に参戦して不幸にも陣歿したわが義勇兵たちのため建立こんりゅうしてあった忠魂塔と、同じ形同じ大きさの記念塔をもう一つ作って
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遥々はるばる亜剌比亜アラビアへ送り返されたとも、元の持主の千賀子のもとで、保存されたとも云われている。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東京から遥々はるばる見送って来た安兵衛という男が、宿屋で毎日朝から酒ばかり飲んでいて
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
智馬商主に向い、貴公が遥々はるばるれて来た馬五百疋がいかほどに売れたか、我は一身を一億金に売って瓦師に報じたという。さては大変な馬成金に成りそこなったと落胆の余り気絶する。
またはおおかみを母としたというような発祥談であるならば、認めるか認めないかの二つのわかみちしかないだろうが、沖へ遥々はるばると出て見たけれども、そういう宝の島は見えないときまると
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夫人は遥々はるばる東京より来訪せる夫君の親友井沢判事饗応きょうおうのため、小女こおんな玉木うめ(十九歳)を連れて、長崎市まで料理材料の買い出しに出かけて行ったが、夕方五時七分着の列車で大村駅へ帰着
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その人も都から遥々はるばる諸戸屋敷を尋ねて来た。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
青芒あおすすきの茂った、葉越しの谷底の一方が、水田に開けて、遥々はるばると連る山が、都に遠い雲の形で、蒼空あおぞらに、離れ島かと流れている。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法縁ほうえんによって、——大和島根やまとしまねにまで遥々はるばるその仏典や根本教義など、すべてを舶載して来て、この国の土に新しい文化を築き、この国の民の体血をとおして
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この詩と句とによって考えると、平五郎という俳諧師はいかいしが、遥々はるばるここへ旅に来て、同好の士がこれを迎えた。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
唯このために丹波路遥々はるばる(でもないが)汽車に揺られて来たのだから、あに目的を達せずんばあるべからずと、鉄条網を乗り越えて、王仁三郎の夢の跡へ踏みこんだ。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
拙者せっしゃこそは浪人にて人丸左陣と申す者。御意ぎょい得たきことござりまして遥々はるばる参ってござります」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先へ行くのは、遥々はるばると来た二人を案内するためではなく、時候おくれの親子を追い越してけ抜けるためのように見える。割符わりふとはうり二つを取ってつけてくらべるための証拠しるしである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思わずその跡をつけて、遥々はるばる船越ふなこし村の方へ行く崎のほこらあるところまで追い行き、名を呼びたるに、振り返りてにこと笑いたり。男はとみればこれも同じ里の者にて海嘯の難に死せし者なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)