越度おちど)” の例文
図書 わたくしこぶしに据えました、殿様が日本一とて御秘蔵の、白い鷹を、このお天守へそらしました、その越度おちど、その罪過でございます。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の上当家に越度おちどあらば寺社奉行の裁判を受けるでござろう、とは申すものゝ罪人ざいにんを作るも本意ほんいでない、何も言わずに此の儘お帰りなさるか
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これ以上愚図々々しておられて大事になるようなことがあっても当医院は責めを負わない云々うんぬん、と云うようなことで自分の越度おちどたなに上げて
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
負う新左が死に、与えたという事実だけが残ることは、逆に、後見職になにか越度おちどがあったという証明にもなりかねない
別に、どの人も悪いのではないのだけれども、こうした運命になる自分の身の越度おちどが、あまりに哀れにみじめったらしくてやりきれなくなるのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
こゝをあずかっている者どもの越度おちどにもなるので、もう何とかしなければなるまいかと内々評定しているうちに、貸本屋の方ではいよ/\増長して
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刃傷にんじょうでもすれば喧嘩両成敗、氏郷も政宗も取潰とりつぶされて終うし、自分も大きな越度おちどである。二桃三士を殺すのはかりごととも異なるが、一席の会合が三人の身の上である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼女は、それだけでもう、世の中のあらゆる不幸に見舞われたように、舌がこわばり、口をきくことができない。だが、自分の越度おちどとして、注意を倍加するのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
神尾がいま並べたようなことは、その一つがあっても、役人の重き越度おちどと言わなければなりません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先方さき越度おちどにならぬよう、それとなく身分を明かすがよいわい」優しくこういう声がした。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こっちの越度おちどだ——どうなりと存分に願いやしょう」と、若者はあっさり折れて出て、「さあ、どこへなりとお伴しますぜ。そして好きなだけ、あっしの血をすすりなさるがいいさ。」
盗まれた品物がなければ、宿直員に越度おちどはなく、罰俸ばつぼうを恐れることもなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こりゃ仰有おっしゃりそうな処、御自分の越度おちどをお明かしなさりまして、路々念仏申してやろう、と前途さきをお急ぎなさります飾りの無いお前様。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
特に彼女達に知られないように気を付けていなかった越度おちどはあるので、こうなって見ると、雪子の手前、自分がお春をたださねばならない責任を感じた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
稻垣小左衞門小屋に於て賊が忍び入って紛失したと、私一人いちにん越度おちどにして、貴様や重三郎へ迷惑の掛らない事にしよう、何の道しくじる稻垣、致し方はない
「どうも腑に落ちないところがある、奉公中に何かの越度おちどでもあったのではないか。」
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いいや、そんなこたあないよ、駒井自身の越度おちどだから、どうも仕方がない」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又市またいち様と云う若殿様は上州高崎へ引取られ、大音龍太郎おおおとりゅうたろうと云う人のため故なく越度おちどもなきに断罪で、あとで調べて見ると斬らぬでも宜かったそうであります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分の越度おちどだけれど、掏摸すりと、どうしたの、こうしたの、という汚名をては、人中へは出られません。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やさしくいたわってくれるほどなお気の毒で、何と云われても自分の越度おちどであることは、———それも軽からぬ越度であることは、いなみようもなく思えるのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
平民の野良犬も多いのに、何も選好えりごのみをして華族様の御手飼をらずともの事だ、奥様に知れようものなら、金次一生の越度おちどとならあ、忌々いまいましい。うぬ、どうして腹をよう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしが止めた、いやそれは宜しくない、一人を殺すは何でもない、まして事を荒立る時には殿様のお眼識違めがねちがいになりお恥辱はじである、また死去致した渡邊織江の越度おちどにも相成る事
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
妙子と妹とはその間に嫂をつかまえて、外科的手段を取らずに殺しては親兄弟の越度おちどになることをくどくどと云い聞かせて、何とかして母親を納得させてくれるように頼んでいる。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
………幸子はあきらめようとしても諦め切れず、その時自分がいなかったことがあたかも自分の越度おちどであるかのように悔まれ、りに選ってその五六分の隙間すきまに電話が懸ったと云うことが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何だか今更親子とも云いにくいと云うのは、女房子を打遣うっちゃって女郎じょろうを連れて駈落する身の越度おちど、本人が和尚さんとか納所とか云われる身の上になったからと云って、今わし親父おやじだと云っても
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よく顔も見なかったのがこっちの越度おちどで、人品骨柄を見たって知れる——その頃は台湾の属官だったが、今じゃ同一所おんなじとこの税関長、稲坂と云う法学士で、大鵬たいほうのような人物、ついて居た三人は下役だね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又あの女童めのわらわを呼び出しに行ってはふみをことづけるより外に、此れと云う智慧ちえも浮かばないのであったが、でもその文の書き方には心を砕いて、此の間の夜のおのれの越度おちどを詫びる言葉を
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此方こっちへお這入り、好いよ遠慮をしないでも………先刻さっき、鳶頭が来たから四方山よもやまの話をして置いたが、何うだいくお前の胸に落ち入ったかい、何もれという越度おちどの無いお前に暇を出すといったら
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玄蕃もりまさがわがいいつけをまもらぬばかりに越度おちどを取ったぞ、それがし一代のこうみょうもむなしくなったが、これも前世のいんがであろうとおっしゃって、いまはおかくごのほどもすゞしく
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)