見知越みしりごし)” の例文
とほりかゝつた見知越みしりごしの、みうらと書店しよてん厚意こういで、茣蓙ござ二枚にまいと、番傘ばんがさりて、すなきまはすなか這々はふ/\ていかへつてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あっちこっち、見知越みしりごしの顔を見付けては、ひそひそ話をしていたじいやが、相談するように一郎の顔をのぞき込んだ。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「ほめられて」といっただけでは、相手の様子は何ともわからぬが、どうもこれは見知越みしりごしの人らしくない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
渠は又、近所の誰彼、見知越みしりごしの少年共を、自分が生村の会堂で育てられた如く、育てて、教へて……と考へて来て、周囲あたりに人無きを幸ひ、其等に対する時のおごそかな態度をして見た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と老人はその中に見知越みしりごしの顔を見つけ出さうと、こすさうな眼つきで皆の顔を見比べた。すると、一番前に末松謙澄けんちよう氏夫人が立つてゐるのが見つかつた。老人は鼻を鳴らして喜んだ。
と首を伸ばして、分ったような、分らぬような、見知越みしりごしのような、で、ないような、その辺あやふやなお妙の顔の見方をしたが
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく見ると同じ町にゐて、かねて見知越みしりごしのさる商人あきんどの娘だつた。
自分から顛倒てんとうしていて突当った人を見ると、じゃの道はへびで、追廻す蝶吉がまた追廻す探索は届いて、顔まで見知越みしりごしの恋のあだ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いゝえ、お知己ちかづきでも、お見知越みしりごしのものでもありません。眞個まつたく唯今たゞいま行違ゆきちがひましたばかり……ですから失禮しつれいなんですけれども。」
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの人は、私が世話になってる叔父が媒酌人なこうどで結婚をしたんだろう。大して懇意ではないが見知越みしりごしでいたのだった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳳仙花の咲いた処でぬっと出て来たのは玄関番、洗晒あらいざらした筒袖の浴衣に、白地棒縞の袴を穿いた、見知越みしりごしの書生で
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの若い芸妓げいしゃは、もう其処には居なかった。それはそれで、懇意なのも見知越みしりごしなのも、いずれも広間へ出たらしく、居合したのは知らぬ顔ばかりであった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おなじむきに連立つれだつた學生がくせいかたが、大方おほかたまはりで見知越みしりごしであつたらう。ふよりはや引擔ひつかついでくだすつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と腹の底から出るような、奥底のない声をかけて、番傘を横に開いて、出した顔は見知越みしりごし一昨日おとといもちょっと顔を合わせた、みねの回向堂の堂守で、耳には数珠じゅずをかけていた。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指すかたもあらでありくともなく歩をうつすに、かしらふらふらと足の重たくてゆき悩む、前にくも、後ろに帰るも皆見知越みしりごしのものなれど、誰も取りあわむとはせできつきたりつす。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指すかたもあらでありくともなくをうつすに、かしらふらふらと足のおもたくて行悩ゆきなやむ、前にくも、後ろに帰るも皆見知越みしりごしのものなれど、たれも取りあはむとはせできつきたりつす。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見知越みしりごしじんならば、知らせてほしい、何処そこへ行って頼みたい、と祖母としよりが言うと、ちょいちょい見懸ける男だが、この土地のものではねえの。越後えちごく飛脚だによって、あしはやい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三千歳みちとせさん、おきりさん。」——風流懺法ふうりうせんぽふ女主人公をんなしゆじんこうと、もう一人ひとり見知越みしりごし祇園ぎをん美人びじんに、停車場ステエシヨンから鴨川越かもがはごえに、はるかに無線電話むせんでんわおくつたところは、まで寢惚ねとぼけたともおもはなかつたが
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
半月はんつき一月ひとつき三月みつき、ものの半年はんとし住馴すみなれたのはほとんどあるまい……ところけるでもなく、唯吉たゞきち二階にかいから見知越みしりごしな、時々とき/″\いへあるじも、たれ何時いつのだか目紛めまぎらしいほど、ごつちやにつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見知越みしりごしで、乗合わした男と——いや、その男も実は、はじめて見たなどと話していると、向う側に、革の手鞄てかばんと、書もつらしい、袱紗包ふくさづつみを上に置いて、腰を掛けていた、土耳古形トルコがたの毛帽子をかぶった
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足駄穿あしだばき尻端折しりっぱしょりで、出会頭であいがしらに、これはと、頬被ほおかぶりを取った顔を見ると、したり、可心が金沢で見知越みしりごしの、いま尋ねようとして、見合わせた酒造家の、これは兄ごで、見舞に行った帰途かえりだというのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)