葉越はごし)” の例文
豐岡とよをかからあひだ夕雲ゆふぐも低迷ていめいして小浪さゝなみ浮織うきおりもんいた、漫々まん/\たる練絹ねりぎぬに、汽車きしやまどからをのばせば、あし葉越はごしに、さはるとれさうなおもひとほつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
驚破すはや、障子を推開おしひらきて、貫一は露けき庭にをどり下りぬ。つとそのあとあらはれたる満枝のおもては、ななめ葉越はごしの月のつめたき影を帯びながらなほ火の如く燃えに燃えたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人は身のふり方にいて相談しはじめた。たけ葉越はごしには二つ三つの星が淋しそうにまたたいていた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
零れ落ちる月明を頼りに、やうやく山毛欅のこんもりとした金比羅山の麓まで辿りつくと、それらしい燈火は何一つとして洩れて来なかつたが、ごやごやした人群の喚声が、葉越はごしに近くききとれた。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
葉越はごしにもゆる金星のものすさまじき
ここの湯のくるわは柳がいい。分けて今宵は月夜である。五株、六株、七株、すらすらと立ち長くなびいて、しっとりと、見附みつけめぐって向合う湯宿が、皆この葉越はごしうかがわれる。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の階子はしごを下り行くとひとしく貴婦人は再びグラスを取りて、葉越はごしの面影を望みしが、一目見るより漸含さしぐむ涙に曇らされて、たちま文色あいろも分かずなりぬ。彼は静無しどなく椅子に崩折くづをれて、ほしいままに泣乱したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
れば、虚空こくうを通りがかりぢや。——御坊ごぼうによう似たものが、不思議な振舞ふるまいをするにつて、大杉おおすぎに足を踏留ふみとめて、葉越はごしに試みに声を掛けたが、疑ひもない御坊とて、拙道せつどうきもひやしたぞ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宮はここを去らんとして又葉越はごしの面影をうかがへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
蒸暑むしあつで、糊澤山のりだくさん浴衣ゆかたきながら、すゞんでると、れいやなぎ葉越はごしかげす、五日いつかばかりのつき電燈でんとうけないが、二階にかい見透みとほしおもてえんに、鐵燈籠かなどうろうばかりひとつ、みねだうでもるやうに
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
豊前ぶぜん小倉こくらで、……葉越はごしと言います。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)