菩提寺ぼだいじ)” の例文
八十幾歳というがまだ元気な老僧が、人を掻分かきわけて前に現われる。大野村に現存する宮本家の菩提寺ぼだいじの住職で永幡智善えいばんちぜん師だとわかる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九七 飯豊いいでの菊池松之丞まつのじょうという人傷寒しょうかんを病み、たびたび息を引きつめし時、自分は田圃に出でて菩提寺ぼだいじなるキセイ院へ急ぎ行かんとす。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の実家(私は高村家の養子であることは前申した通り)の菩提寺ぼだいじが浅草松葉町まつばちょうにあるので其寺そこの坐敷を借りることにしました。
殊に、初てのお通夜の晩に、菩提寺ぼだいじの住職がお説教をしたが、その坊主は自分の説教にはくを附ける為か、英語を交じえたりした。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
八。菩提寺ぼだいじの和尚と、村の手習ひ師匠と、左門町のうらなひ者白井白龍に逢つて、百兵衞の外にあの不思議な謎々の文句の判じ方を
変死のうちでも、雷死は検視をしないことになっているので、お朝の死骸はあくる日のゆう方、今戸いまど菩提寺ぼだいじへ送られてかたのごとく葬られた。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
恵林寺が夢窓国師むそうこくしの開山であって、信玄の帰依きえの寺であり、柳沢甲斐守の菩提寺ぼだいじであるということ、信長がこの寺を焼いた時、例の快川国師かいせんこくし
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
葬式の通知も郷里の伯母、叔父、弟の細君の実家、私の妻の実家、これだけへ来る十八日正二時弘前市の菩提寺ぼだいじで簡単な焼香式をいとなむ旨を書き送った。
父の葬式 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
義髄は一日も人身の大礼を仏門にゆだねるの不可なるを唱え、中世以来宗門仏葬等のことを菩提寺ぼだいじ任せにしているのはこの国の風俗として恐れ入るとなし
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほかに太田嘉助が、自分の家の菩提寺ぼだいじを候補にあげたが、寺は芝の愛宕下で、町のまん中だから、それはだめということになり、いちおう橋場の寮に定った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東京生れの檜垣の主人はもはや無縁同様にはなっているようなものの菩提寺ぼだいじと墓地は赤坂青山辺に在った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども気味のわるい長虫はいまだにやめぬ、——どうしたものかと迷っていたやさき、さいわいなことに、ここの寺はてまえたち一家の菩提寺ぼだいじなのでござります。
牛込の奥に菩提寺ぼだいじがあるんですから、きっとお寺詣てらまいりにでも行ったんでしょうが、変なものですねえ。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
江戸を落ちた徳川のながれの末の能役者だったという、八郎の母方の祖父おおじ伯父また叔父、続いて祖母おおば伯母おばまた叔母などの葬られた、名も寺路町てらみちまちというのの菩提寺ぼだいじであった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思えばインドのブダガヤの菩提寺ぼだいじで釈迦牟尼仏にお逢い申したが、今また此寺ここで釈迦牟尼仏にお逢い申すというのは世にもありがたい事であると、無限の情に迫られて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
元来この台地一帯は、北条氏の菩提寺ぼだいじだつた東勝寺の旧跡で、つその一門滅亡の地でもある。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ういう都合でござりますか、藤原は明後日葬式を菩提寺ぼだいじまで見送ることが出来ませんので、その翌晩通夜つやをいたし、翌早朝葬式を途中まで見送って、自分は西丸下へ帰り
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その山本と咲子は二年の間も醜關係を結んでゐたのだといふことを菩提寺ぼだいじの若い和尚から聞かされた。憤りも、恨みも、口惜しさも通り越して圭一郎は運命の惡戲いたづらに呆れ返つた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
菩提寺ぼだいじにお坊さんもいないことをくやんだが、小さな八津は坊さんのことなど考えたこともなかったろうと思うと、大吉は、声はりあげて経をよむ坊さんまでがうらめしかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
私がった下男げなん老爺ろうや夫婦たち一同が、そろって市内畦倉あぜくら町の菩提寺ぼだいじ、厳浄寺で墓前の祭りを営んでいる最中に、無人の屋敷より原因不明の怪火を発し、由緒ある百八十年の建物は
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さきの人見廣介は、駅を出ると、その足でただちに菰田家の菩提寺ぼだいじへと、急ぐのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕は萩寺の門を出ながら、昔は本所ほんじよ猿江さるえにあつた僕の家の菩提寺ぼだいじを思ひ出した。この寺にはなんでも司馬江漢しばかうかん小林平八郎こばやしへいはちらうの墓のほかに名高い浦里時次郎うらざとときじろう比翼塚ひよくづかも残つてゐたものである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
外川先生の祈祷きとうで式は終えた。一同記念の撮影をして、それから遺髪と遺骨を岩倉家の菩提寺ぼだいじの妙楽寺に送った。寺は小山の中腹にある。本堂の背後うしろ、一段高い墓地の大きな海棠かいどうの下に
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かたの如く菩提寺ぼだいじはうむわづかなる家財かざい調度てうど賣代うりしろなし夫婦が追善のれうとして菩提寺へをさ何呉なにくれとなく取賄とりまかないと信實しんじつに世話しけりされば村の人々も嘉傳次がを哀み感應院のあつなさけかんじけるとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある時二人は城下はずれ等覚寺とうかくじという寺へ親の使に行った。これは藩主の菩提寺ぼだいじで、そこにいる楚水そすいという坊さんが、二人の親とは昵近じっこんなので、用の手紙を、この楚水さんに渡しに行ったのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新仏にいぼとけといっしょに檀家だんかから菩提寺ぼだいじへ納めてくるいろいろの品物には、故人が生前愛玩あいがんしていたとか、理由わけがあって自家うちには置けないとか、とにかく、あまりありがたくない因縁ものがすくなくない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四月三十日 シエクスピア菩提寺ぼだいじ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「まア、お氣の毒な、——主人には内證ないしよで私が引受けませう。越後屋の菩提寺ぼだいじに葬られなくても無縁佛にされちや可哀想です」
彼は、母の菊女の菩提寺ぼだいじへ逃げた。今戸の称福寺である。暗い蜘蛛くもの巣の中に、息をころして、七日あまり、干飯ほしいをかんで、潜伏していた。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここでは規定の神社参拝のほかに、熊谷蓮生坊の菩提寺ぼだいじなる熊谷寺ゆうこくじに参詣をしようと、二人が町並を歩いて行くと、一つの芝居小屋がありました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弘前ひろさき菩提寺ぼだいじで簡単な法要をすませたが、その席で伯母などからさんざん油をしぼられ、ほうほうのていで帰京した。その前後から自分は節制の気持を棄てた。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
そのうちに年が経って、殿様も奥様もお時に泣く泣く送られて、いずれも赤坂の菩提寺ぼだいじへ葬られてしまった。家督かとくを嗣いだ嫡子の外記は十六歳で番入りをした。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かたちばかりであるが、菩提寺ぼだいじから僧を招いて落慶供養をすることになり、節子は相良桂一郎を招待した。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
八七 人の名は忘れたれど、遠野の町の豪家にて、主人大煩おおわずらいして命の境に臨みしころ、ある日ふと菩提寺ぼだいじに訪い来たれり。和尚おしょう鄭重ていちょうにあしらい茶などすすめたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
八郎の菩提寺ぼだいじ潜門くぐりを入った、釣鐘堂の横手を、墓所はかしょへ入る破木戸やぶれきどで、生垣の前である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛利大膳もうりだいぜん父子も萩の菩提寺ぼだいじ天樹院に入って謹慎を表したのであるから、これ以上の追究はかえって長州人士を激せしめ、どんな禍乱の端緒となるまいものでもないと言い立てて
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あい。月は違いますなれど、二十六日がみまかりました日でござりますゆえ、父にるすを頼みまして、朝ほど浅草の菩提寺ぼだいじへ参り、五ツ少しすぎまして帰ってまいりますると——」
菩提寺ぼだいじの寺は、町の本陣の位置に在るわたくしの実家のほとんど筋向うである。あまり近い距離なので、葬列は町を一巡りしたという理由もあるが、かく、わたくしたちは寺の葬儀場へ辿たどりついた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とられ大酒に醉伏ゑひふし燒死やけじにたるに相違なき由にて其場は相濟あひすみたり是に依て村中評議ひやうぎの上にてお三ばゝの死骸しがいは近所の者共請取うけとり菩提寺ぼだいじへぞはうむりける隣家りんかのお清婆きよばゝと云は常々お三ばゝと懇意こんいなりければ横死わうし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日光の御廟ごびょうへ詣ったのが、ただ一つの思い出であり、東海道筋では、幼年のとき鎌倉の菩提寺ぼだいじへ参詣したことがあるりじゃ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菩提寺ぼだいじに先代安倍丹後守の墓にまうで、當主丹之丞が歸る前にいよ/\腹を切つて申譯だけはしようと思つたのでした。
それからさらに本所へまわって、自分の菩提寺ぼだいじにかくれた。その以後のことはこの物語に必要はない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このたびは自分も死ぬ覚悟で、すでに菩提寺ぼだいじへ戒名を遺して来た。そこもとにも死をしてもらわなければならないが、これは自分から云うまでもないことと思う。
形ばかりでも菩提寺ぼだいじというものがあって、親類縁者というものが集まって、野辺のべの送りというものを済ました後、霊魂の安住という祈念で納めた特定の場所ではないらしい。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
例の神葬改典以来は父祖の位牌いはいも多く持ち帰り、わずかに万福寺の開基と中興の開基との二本の位牌を残したのみで、あの先祖道斎が建立こんりゅうした菩提寺ぼだいじも青山の家からは遠くなった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下小川の羅漢寺は、その赤松氏の宅地と隣り合っていた菩提寺ぼだいじなので、そこを訪ねてみたら、祖先の平田氏の過去帳などもあるかも知れない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家でも人形の処分に困って、いろいろ相談の結果、町はずれの菩提寺ぼだいじへ持って行って、僧侶にお経を読んでもらった上で、寺の庭先で焼いてしまうことにしたのです。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
法要は、川越にある菩提寺ぼだいじで行なわれた。平三郎は寺からすぐ江戸へ帰ったが、なお女は親族の家に三日滞在し、秋深い武蔵野のそこ此処を見物したうえ帰途についた。
日本婦道記:小指 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その使いに出した下男の森三もりぞうが、途中から買収されて、いい加減な返事を持って来たとは夢にも知らず、平次に頼む望みも絶えて、菩提寺ぼだいじに先代安倍丹後守の墓に詣で
この大きな笈の中に、この世の息を引取った清澄の茂太郎が、眠るが如くに往生を致しておりますのでございます、私は、これを持って江戸の菩提寺ぼだいじへ安らかに葬ってやりたいと思いまして
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)