)” の例文
臍下丹田に力をめれば、放屁の音量を大にするばかりであり、丹田の力をぬけば、心気顛倒てんとうして為すところを失うばかりであった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もしか敵役かたきやくでも出ようものなら熱誠をめた怒罵どばの声が場内に充満いっぱいになる不秩序なにぎやかさが心もおどるように思わせたのに違いない。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
汽車に連るる、野も、畑も、はたすすきも、薄にまじわくれないの木の葉も、紫めた野末の霧も、霧をいた山々も、皆く人の背景であった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが西八条にしはちじょうめられたのち、いきなり、この島へ流されたのじゃから、始はおれも忌々いまいましさの余り、飯を食う気さえ起らなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少しの魂をもめることなくただ形式的に人を愛するがごとく振舞う人よりも私はむしろ本当に旺盛な魂をもって人を憎む人を好む。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
「ほんとに商売をめてしもうてからにします」とばかりで、夜遅く近処の風呂にゆくほかは一日静かにして家にとじもっていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
山脈のすそは温泉宿の小さい町が白い煙をめていた。停車場は町はずれの野原にあった。機関庫はそこから幾らか山裾の方へ寄っていた。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
某人あるひとが「安芸あき厳島いつくしま弁財天べんざいてんへ、火のものを絶って祈願をめると、必ず覚えがよくなる」と云って教えた。尊は十二三であった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私達には何もお礼をすることが出来ませんから、せめて私達が真心をめて作ったこのプレゼントを御受納下さい、というのです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
そゝぐ涙に哀れをめても、飽くまで世を背に見たる我子の決心、左衞門いまは夢とも上氣とも思はれず、いとしと思ふほど彌増いやまにくさ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
堂内は冷えびえした午後の薄ら明りでした。吹き降りの気配は忘れたやうに去つて、静寂がさむざむとあたりをめてゐるだけでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
大きくはないが喬木きょうぼくが立ちめて叢林そうりんを為した処もある。そしてその地には少しも人工が加わっていない。全く自然のままである。
朝陽は靄を抜けて、光をじかに庭に当て始めたためでしょうか、木々の芽立ちの匂いがくん/\あたりに立ちめてまいりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから人間一切の行動を支配する精神もしくは、生命意識なるものは、脳髄の中に立てもっているのじゃないかしらんと考えられる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次の瞬間、ぼくは夢中むちゅうであなたの肩をたたき、出来る限りのやさしさをめ、「秋ッペさん泣くのはおよしよ。もう横浜が近いんだ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「ファウスト⁉ ああ、あのグレーテさんが断末魔に書かれたと云う紙片の文字のことですか」レヴェズ氏は力をめて、乗り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
母を喜ばしむ、ぜんよりも一層真心をめて彼女かれを慰め、彼女をはげまし、唯一のたてとなりて彼女を保護するものは剛一なりける
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
折から初秋はつあきの日は暮るるになんなんとして流しの上は天井まで一面の湯気が立てめる。かの化物のひしめさまがその間から朦朧もうろうと見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この夜は別して身をきよめ、御燈みあかしの数をささげて、災難即滅、怨敵退散おんてきたいさんの祈願をめたりしが、翌日あくるひ点燈頃ひともしごろともなれば、又来にけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小網こあみ町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衛は、とうとう嫁のお絹を追い出した上、せがれの染五郎を土蔵の二階にめてしまいました。
捨吉は右の足を後方うしろへ引き、下唇をみしめ、両腕に力をめながら、友達の拳の骨も折れよとばかり突撃して行った。菅も突き返した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にんじんは、そこで、なんとか愛情をめた返事をしたいと思った。が、何ひとつ頭に浮かばない。それほど、一方に気を取られている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼女のほおに付いていた白い羽毛の一端が、反絵の呼吸のために揺れていた。反絵はなおも腕に力をめて彼女の上に身を蹲めた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
後ろから、葉子の頭から爪先つまさきまでを小さなものででもあるように、一目にめて見やりながら、その船員はこう尋ねた。葉子は
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
伏見には家臣池田織部いけだおりべを。宇治には奥田庄太夫を。淀には番頭ばんがしら大炊助おおいのすけを。また勝龍寺の城には、三宅綱朝みやけつなともをそれぞれめてある。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅の上衣を頂より被りて、一人の穉兒をさなごには乳房をふくませ、一人の稍〻年たけたる子をば、腰のあたりなるの中に睡らせたる女あり。
僕はたびたび見たが、ひなやしなっている雌鶏めんどりかたわらに、犬猫いぬねこがゆくと、その時の見幕けんまく、全身の筋肉にめる力はほとんど羽衣はごろもてっして現れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
皇孫命様こうそんのみことさま竜神様りゅうじんさままた産土神様うぶすなかみさま礼拝らいはいし、今日きょうにち任務つとめ無事ぶじつとめさせてくださいますようにと祈願きがんめることにしました。
『違ひます。その人もだいぶん前にお亡くなりになりました。』奥さんの言葉には何故か思ひをめたやうな響がありました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
正吉は無言で受取り、千万の言葉をめた会釈を……たった一度。よろめく足を踏みしめ踏みしめ、こがらしの中を両国の方へ——。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
例えば学校の女生徒が少しく字を知り又洋書など解し得ると同時に、所謂詠歌国文に力をめ、又は小説戯作など読んで余念なきものあり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕はやはり二三日うちに、荷物はこのまま預けておいて、ホテルを引き上げよう。しかし、いかるがの宿にもるのではない。東京へ帰る。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「そう心配したものでもないのよ。結婚してしまえば、旦那だんなさまや奥さまに愛せられて、自分々々の生活に立てもるのよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つまりはちぎりをめたただ一人ひとりの若者にすがって、純なる夫婦のかたらいを持続する力の無い、あわれなる者という意味にほかならぬのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幾婆いくばあさんに何であらうと相談すればここでもわからず、そんな噂はなかりしが兼吉さんがむので浴衣のあつらえでもあるのか知らぬとのみ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これ深更なるに拘らず多数の人、戸口に集りゐてみ入らんとしたればなり。本人は彼異様に鋭き声を発せし人をイタリア人ならんと思へり。
おきわは向島の寮に押しめられて、土蔵の二階に住んでいるに相違ない。お通が見たという幽霊のような女はそれである。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まあこんな事にしておいてという糊塗ことした気味もある。どこやらに押付けたものをめていて不平がある句といってもよい。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はこれより心のムシヤクシヤするのを追払らふ積りで一際精神めて働らき、昼頃ひるごろまでに美事立派なちんが出来あがり升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
めたる妙音が我身を引寄せるように覚え「ではちょいとお邪魔をしようかね、広海さんにも先日のお礼を申さねばならん」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と一句に力をめて制する母親、その声ももウこう成ッては耳には入らない。文三を尻眼しりめに懸けながらお勢は切歯はぎしりをして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この一組は二枚の処も四枚の所もあって、なかなか大きく手のんだもの。……これらはいずれも首尾よく納まりました。
私は隅の方の席から、自分で「我が師」とめている人を「ここにあなたの貧しい弟子が一人います。」という気持をめて見つめていました。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
すると彼は、いかにもりっぱな親切とやさしさとをめて彼女を眺めてやった。病気はなおると言いきかして、愛せられることを承諾してやった。
そのうちに五月が過ぎ六月が来た。政治季節の外は、何の用事もない父は、毎日のように書斎にばかり、閉じもっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さあ米友が承知しない、両の腕に力をめてうんと振りもぎると、押さえていた二三人がよろよろとよろけて手を放す。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さて又丹下、今一度ただ今のように真心めて礼を致してノ、自分の申したる旨御用い下されと願え。それがしも共に願うて遣わす、くの通り。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
感情は内にめて置いてあらわに出さずにその感情の上に立って客観写生をせよという意味であります。この方法で何十年間か過してまいりました。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
棒の先に、だんだんと力をめていった。ギイギイギイと腕金の錘りが浮きだした。僕はここぞと思ってあらん限りの力を出して腕をつっぱった。……
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
始めは静かであつた声は次第に高くなつて行つた。その声の中にはまだけがれない無邪気な心がめられてあつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)