)” の例文
土気色をしたせて枯木のように乾干ひからび切った埃及の木乃伊を連想する我らの木乃伊の概念を越えて、これはまたなんという美しい
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
お菊はぬき足をしてそこを通り過ぎて、主人の居間の縁先に立つと、軒の大きい桜もきのうにくらべると白い影が俄かにせていた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこへ男の待っている電車が来たと見えて、彼は長い手で鉄の棒を握るやいなせた身体からだていよくとまり切らない車台の上に乗せた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当時の彼はせこけて体量十一貫位であったが、検査の結果は皮膚脆弱というようなことで、乙種の不合格であったと覚えている
いまはせてしまって心配そうな太い静脈が額に絡み合っている。亭主の不身持か、世帯の苦労か、産後からひき起した不健康か。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青きあわせに黒き帯してせたるわが姿つくづくとみまわしながらさみしき山に腰掛けたる、何人なにびともかかるさまは、やがて皆孤児みなしごになるべききざしなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顏色かほいろ蒼白あをじろく、姿すがたせて、初中終しよつちゆう風邪かぜやすい、少食せうしよく落々おち/\ねむられぬたち、一ぱいさけにもまはり、往々まゝヒステリーがおこるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
せているので、ほんとうの身丈みのたけよりずっと長身に見える。おもざしは冷たすぎるほど端正たんせいで、象牙のようなえかえった色をしていた。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
五十を越したであろう年輩の、蝋燭の淡い灯によって前下方から照し出されたせ顔は、髑髏どくろを思わせるように気味が悪かった。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「おのれ! 酷いことをしやがる。酷いことをしやがる」と、云うかと思うと、せた右の手の甲で老顔を幾度もこすりました。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
戸に向ってせて骨ばったひざそろえて正坐する時には、忘れてはならぬ屈辱の思いが今さらのようにひしひしと身うちに徹して感ぜられ
(新字新仮名) / 島木健作(著)
ろうはどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へんせて小屋を出た。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
吾々はスコットランドにおいて、所有者によってかくの如くして耕作され他の何人によっても耕作され得ないせた土地を見る。
彼はせた、静脈の透いて見えるような美しい皮膚の少年だった。まだ薔薇ばらいろの頬の所有者、私は彼のそういう貧血性の美しさをうらやんだ。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
此のせぼけたおとなしい寂心を授戒の師とし、自分は白衣びゃくえの弟子として、しおらしく其前に坐ったかと思うと、おかしいような気がする。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
実に過去に於て、こうして焼き棄てた原稿が、およそ二千枚にもなってるだろう。僕はそれを考えると、今でもげっそりとしてせてしまう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
光一はすぐ引きかえして黙々塾もくもくじゅくへでかけた。じゅくにはだれもいなかった。光一はひっかえそうとすると窓からせたひげづらがぬっと現われた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
鶴のようにせたお身体からだに、眉とひげが、雪のように白く垂れ下がった、それはそれは、有り難いお姿の、和尚おしょう様で御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母親は心配して祈祷きとうしたりまじないをしたりしたが、王の容態はますます悪くなるばかりで、体もげっそりせてしまった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
背低くして肉せたれど健康は充分にして随分百歳までも生延得る容体とし頭髪かみのけお白茶けたる黄色の艶を帯びて美しく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「色んな顔があるもんだね。あんまり丸ぽちゃは現代的で可笑しいね。あんたは冠かぶるとよく似合うよ。せているから」
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
喉ぼとけの突き出たせた若い男は、そういうとコップの水を一息に飲んだ。彼は小柄で、負けた犬みたいなおどおどとした目つきをしていた。
恐怖の正体 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
醤は、これを見て、ちょっと顔色をかえたが、すぐ思い直したように、せた肩をそびやかせて、いて笑顔をつくった。
概して新しい試みの品は形がせて見劣りがしますが、それは今の暮しそのものが弱まって来たからではないでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
尾根はせていて迷う憂はないけれども相当な藪である上に、登降が激しいので、三宝山の頂上まで約五時間を要した。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
屍体に特殊の化学作用をほどこして保存してあるのだという。頬や手なぞ水々して、せてはいるが。いまにも欠伸あくびといっしょに起き上りそうだ。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
こんなことを言って、細くせた左の手で肉叉ホオクさじを持添えながら食った。宗蔵ははしが持てなかった。で、こういうものを買って宛行あてがわれている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弥吉は、せてはいるが、今小姓仲間の孔雀くじゃくといわれている大隅を、そう言われて急に思い出した。なぜか児太郎とくらべものにならない気がした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一日たったやつは、せていて、かどばったひざをがくりと突き、すぐ、元気いっぱいにち上がる。生れたての赤ん坊はねばねばだ。めてないのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
貧乏びんばう百姓ひやくしやう落葉おちばでも青草あをぐさでも、他人ひと熊手くまでかまつたあともとめる。さうしてせてつちさらほねまでむやうなことをしてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼らの身長は滅多に五フィートを超えず、その腹は膨れ上り、肩は高く、頭は大きく、そして四肢は不釣合にせている。
かえって尊攘実現のためせる思いをしつつある松平肥後守以下京都における真正合体派の権力を、一挙に清掃して政権を奪取することに懸っていた。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
彼女は熱い鉄板の上に転がった蝋燭ろうそくのようにせていた。未だ年にすれば沢山たくさんあるはずの黒髪は汚物や血で固められて、捨てられた棕櫚箒しゅろぼうきのようだった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
……それにしても姉さまがあのせこけた小柄な古島さんをしつかりつかまへて、上からしげしげと覗きこんでゐる図を目に浮べてみると、妙に切ない
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
余の家にも他の若い者なみに仕事に来ることがある。五十そこらの、せて力があまりなさそうな無口な人である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
評議の席で一番熱心に復讐ふくしゅうがしたいと言い続けて、成功を急いで気をいらったのは宇平であった。色のあおい、せた、骨細の若者ではあるが、病身ではない。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つずら折りを重ねて、木がせたな……と思う頃、ふと幅広い底強い音が、どこからともなく耳を打ってくる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
なかなかうまく行かない。繰り返し繰り返し、旨く行くまで彫らされる。彫るものの身になると、まことつらい。肥えさせればぼてるし、せさせれば貧弱になる。
だがそれにもかかわらず、また患者の異常な食慾にも拘らず、彼は日に日にせ衰えて、助手が日毎ひごとに記入するフントの数はだんだん少なくなって行くのだった。
せても枯れてもわしは淵瀬、そなたの力を借るまでもないと、初めは笑ひて取合はざりしが、お艶が切に請ふて止まざるにぞ、さらばそなたの気の済むやうと
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
美しい顔ではありませんが、色の黒い、せた顔に、子供らしい瞳が、くるくるしていて可愛かわいらしい。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
せた男は役人生活をしてゐるからには、何日いつまた大臣の椅子になほらうかも知れぬ加藤さんだ、一寸出迎へをした位で、そんな場合に官等の一つもあがる事が出来たなら
ただK君と違うのは、——僕はいつも小説などを読むと、二人ふたりの男性を差別するために一人ひとりふとった男にすれば、一人をせた男にするのをちょっと滑稽に思っています。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
病人さん(自注13)は、けさあなたから親切な手紙を貰ったとよろこび、私たち二つの顔を見たらいかにも嬉しそうでしたが、せて、弱って、ひどい。八貫位の由です。
そんなに歩が遅くちゃアとても腹一杯に物を捉え食う事はなるまい、お前ほどせて足遅と来ちゃ浮々うかうかすると何かに踏み殺されるであろう、よしか、一つ足を試して見よう
空気、乾湿の度を失い、太陽の光熱、物にさえぎられ、地性、せて津液足らざる者へは、たとい肥料を施すも功を奏すること少なきのみならず、まったく無効なるものあり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ふみ「なにあなたね、続いて二日ぐらい食べぬ事が有りまして、又食べさして又たたた食べ……(泣沈む)何うもがゞ餓鬼道のようでございますからせます訳でございます」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今年は不作はづれだね、せてゐて、虫が多い、あの雨がさはつたのさ。間、どうだい、君の目的は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは見る眼にりっぱな広い葉である。わたしの部下はこの乾いた土をうるおす露と雨、それから、概してせて力のないこの土地そのものにそなわっただけの肥沃さ、である。
せぎすな、悪く申しますと、蟷螂かまきりを思わせる様な御仁でございましたが、お商売がら、と申すのでございましょうが、とても、お話がお上手で御座いまして、お弟子さんのお相手にも