ばし)” の例文
両国橋の木造だつた頃には駒止こまとばしもこの辺に残つてゐた。のみならず井生村楼ゐぶむらろう二州楼にしうろうといふ料理屋も両国橋の両側に並んでゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつともなく菊亭右大臣家きくていうだいじんけばしにたたずんだ三人づれの旅僧たびそうは、人目ひとめをはばかりがちに、ホトホトと裏門のをおとずれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二の股川を合わせた吉野川が幾らかはばの広い渓流けいりゅうになった所にばしかかっていて、それを渡ると、すぐ橋の下の川原に湯が湧いていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
われその頃外国語学校支那語科の第二年生たりしがひとばしなる校舎におもむく日とてはまれにして毎日飽かず諸処方々の芝居寄席よせ
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、その裏口から、人が飛出して、私が居るとも氣がつかずに、あたらばしの方へスタスタ行つてしまひました。恐ろしく背の高い男でございました。
ばしの鉄材が蛛手くもでになって上を下へと飛びはねるので、葉子は思わずデッキのパンネルに身を退いて、両袖りょうそでで顔をおさえて物を念じるようにした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その天井の下には、やはりおなじ色のばしが、あみのように、縦横じゅうおうにとりつけられ、どこまでものびていった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
明治十五年のころでありましたか東京府の構内かうないに第二中学とふのがりました、ひとばしうちの第一中学に対して第二とつたので、それがわたしが入学した時に
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
学校も始めはおちゃみずでしたが、上野うえのになり、ひとばしに移って行き、その間に校長も先生もたびたび代ります。平田盛胤もりたねという若い国語の先生が見えました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
おしどりは元来京風の髷で、島田にさばばしを掛けたその捌きが鴛鴦おしどりの尻尾に似てもおり、橋の架かった左右の二つの髷を鴛鴦の睦まじさに見立てたわけなのでしょう。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
御成門から、植村出羽の邸に沿って曲り、土橋へ出ないで、あたらばしの方へ進んだ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
天柱てんちうくだけ地維ちいかくるかとおもはるゝわらこゑのどよめき、中之町なかのちやうとほりはにわか方角ほうがくかはりしやうにおもはれて、角町すみちやう京町きやうまち處々ところ/″\のはねばしより、さつさせ/\と猪牙ちよきがゝつた言葉ことば人波ひとなみくるむれもあり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
前夜、福井に一泊して、その朝六あさむばし、麻生津を、まだ山かつらに月影を結ぶ頃、霧の中をくるまで過ぎて、九時頃武生に着いたのであった。——誰もいう……此処ここは水の美しい、女のきれいな処である。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水を飲みに行つたと噂をされた位、美事な彫物であつたが、之も歩兵が射出うちだした鉄砲の為に、焼かれてしまつた、其れから中堂、此の中堂は金がかかつて居た、欄干は総朱塗で、橋があつて之を天馬ばし
下谷練塀小路 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
髪結かみゆいのおたつと、豆腐屋とうふやむすめのおかめとが、いいのいけないのとあらそっているうちに、駕籠かごさらおおくの人数にんず取巻とりまかれながら、芳町通よしちょうどおりをひだりへ、おやじばしわたって、うしあゆみよりもゆるやかにすすんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
四条ばしおしろいあつき舞姫のぬかささやかに撲つ夕あられ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
寒さばしの側へ占いに出るのだが可哀想だのう
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ロンドンばしがおちた。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
おそらく、ここの渡辺橋というのも、当時の大橋でこそあれ、こころぼそい板を敷きならべたばしであったに過ぎまい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「バスに乗って行こ」いうてばしの停留場い出て、そいから阪神で家い帰るまで、夫は不機嫌に黙ってしもて、何いうてもなま返事しかせえしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところがどうでございましょう、この頃往来おうらいの話を聞けば、阿媽港甚内あまかわじんない御召捕おめしとりの上、もどばしに首をさらしていると、こう申すではございませんか? わたくしは驚きも致しました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其内そのうち山田やまだしばからひとばしまで通学つうがくするのはあまとほいとふので、駿河台するがだい鈴木町すずきちやう坊城ばうじやう邸内ていない引越ひつこした、石橋いしばし九段坂上くだんさかうへの今の暁星学校ぎやうせいがくかうところたのですが、わたし不相変あひかはらずしばからかよつて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
向うに昔の御搗屋おつきや今の文部省に沿うてひとばしへ出る。
ばしと書いてりませう。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ばばあはヒラヒラとばしのそばまできて、かたくじた裏門うらもんを見まわしていたが、やがて得意とくいそうに「ひひひひひひひひ」と、ひとりで笑いをもらした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがとうとうからめとられた上、今度一条もどばしのほとりに、さらくびになったと云う事も、あるいは御耳にはいって居りましょう。わたしはあの阿媽港甚内に一方ひとかたならぬ大恩をこうむりました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ばし辺の牡蠣船かきぶねから見る景色を思い出させるのである。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし日満だけは、例外とされていたし、妙宣寺と幽所のあいだはおほりばし一つほどな近距離でもあったから、自然、会わぬ日もないほどな仲だった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は本郷や日本橋よりもむしろ寂しい本所を——回向院を、駒止こまどばしを、横網を、割り下水を、はんの木馬場を、お竹倉の大溝を愛した。それは或は愛よりもあわれみに近いものだったかも知れない。
風もないのに、紅梅こうばい白梅はくばいの花びらが、ばしの水に点々てんてんとちって、そのにおいがあやしいまでやみにゆらぐ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は二年生か三年生かの時、矢代幸雄やしろゆきを久米正雄くめまさを二人ふたりと共にイギリス文学科の教授方針を攻撃したり。場所はひとばしの学士会館なりしと覚ゆ。僕等はくわを以て衆にあたり、大いに凱歌がいかを奏したり。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとばし慶喜よしのぶは、摂海せっかい警備視察という触れで、十二月には、入洛じゅらくの予定だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千鳥の泳いでゆくように、舟の列は、どうばししたへと漕ぎ上ってゆく。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忽ち、その場で討死するもあり、を負って敵の中へ捲き込まれてしまった者も少なくないが、かくて大部分の者は、機をはかって、まっしぐらに城門のほうへ退き、最後のばしを上げてしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんどんばし
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)