早瀬はやせ)” の例文
と見るまに、二のせきれいのうち、一羽がとろの水に落ちて、うつくしい波紋はもんをクルクルとえがきながら早瀬はやせのほうへおぼれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんでも、あおいかえるをはりにつけて、どろぶかかわで、なまずをり、やまからながれてくる早瀬はやせでは、あゆをるのだというはなしでした。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それから、早瀬はやせ時計店の盗難、小倉おぐら男爵家の有名なダイヤモンド事件、北小路きたこうじ侯爵夫人の首飾り盗難事件、……」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
障子をあけると、宇治の早瀬はやせに九日位の月がきら/\くだけて居る。ピッ/\ピッ/\千鳥ちどりいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
早瀬はやせ殿の心持ちにも同情せねばなりますまい! 早瀬殿のお父上は、六波羅の奉行でござりまするぞ!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるとしなつはじめやかたもり蝉時雨せみしぐれ早瀬はやせはしみずのように、かまびずしくきこえている、あつ真昼過まひるすぎのことであったともうします——やかた内部うちっていたような不時ふじ来客らいきゃく
然程さるほどに畔倉重四郎は鎌倉屋金兵衞の子分こぶん八田掃部練馬藤兵衞三加尻茂助の三人をともなひ我がを出て元栗橋もとくりばしへと急ぎ行く程なく來掛きかゝる利根川堤早瀬はやせなみ水柵しがらみに打寄せ蛇籠じやかご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほらの口に煙がぱっととんだかと思うと、三悪漢あっかんをのせたボートは、木の葉のごとくひるがえって矢をいるごとき早瀬はやせに波がぱっとおどるとともに、三人のすがたは一ぷく
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
腹にひれでできたような吸盤きゅうばんがついていて、早瀬はやせに流されぬよう河底の石に吸いついている。
京都のごりの茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ふゆの、山國やまぐにの、にしおふ越路こしぢなり、其日そのひそらくもりたれば、やうやまちをはづれると、九頭龍川くづりうがは川面かはづらに、夕暮ゆふぐれいろめて、くらくなりゆく水蒼みづあをく、早瀬はやせみだれておと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「私は小堀和泉守樣御上屋敷に仕へて居ります、早瀬はやせと申します、御見識おみしり置きを——」
眼の下の岩にくだけつつある早瀬はやせの白いあわが、ようよう見分けられるほどの黄昏たそがれではあったが、私は津村がそう云いながらかすかに顔をあかくしたのを、もののけはいで悟ることが出来た。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これを見るよりむねせまり、たいまつこゝにやけおちてつなをやきゝり、たなおちてをつと深淵ふかきふちしづみたるにうたがひなし、いかにおよぎをしり給ふとも闇夜くらきよ早瀬はやせにおちて手足てあしこゞたすかり玉ふべき便よすがはあらじ。
多摩川原早瀬はやせにうつるつがの木の春浅うして人うぐひ釣る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こいは、幾年いくねんおおきないけに、またあるときはかわなかにすんでいたのです。こいは、かわ水音みずおとくにつけて、あの早瀬はやせふちをなつかしくおもいました。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
同道どうだうしたる男は疑ひもなき敵とねらふ吾助にて有れば忠八はおのれ吾助とひながらすツくとあがる間に早瀬はやせなれば船ははやたんばかりへだたりし故其の船返せ戻せと呼はれ共大勢おほぜい乘合のりあひなれば船頭は耳にも入ず其うちに船は此方のきしつきけれとも忠八立たりしまゝ船よりあがらず又もや元の向島むかうじまの方へと乘渡り群集ぐんじゆの中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)