接吻くちづけ)” の例文
我また見しにあたかもかの女の奪ひ去らるゝを防ぐがごとく、ひとりの巨人その傍に立ちてしば/\これと接吻くちづけしたり 一五一—一五三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
わたくしの欲望ねがひは高くまた低く、皺襞ひだの高みでは打ゆらぎ、谷あひでは鎮まりまするが、白と薔薇色のおんみの御体みからだを一様に接吻くちづけで被ひまする。
まだ残っている頬擦りや接吻くちづけあたたかさ柔かさもすべて涙の中に溶けて行って私に残るものは悲哀かなしみばかりかと思われる。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その墓石に接吻くちづけをして、その上に泣き伏すだろうことを今からちゃんと承知しているが、それと同時に、それが皆とうの昔からただの墓場にすぎず
高慢らしい高い鼻に、軽薄らしい薄手の唇に——しかしそういう唇は、男の好色心を強くいざなって、接吻くちづけを願わせるものである。——お菊の顔は美しかった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春の生理をみなぎらした川筋の満潮みちしおが、石垣のかきの一つ一つへ、ひたひたと接吻くちづけに似た音をひそめている。鉄砲洲てっぽうず築地つきじ浅野家あさのけの上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて何事か詩人の耳に口寄せて私語ささやき、私語ささやきおわれば恋人たち相顧みて打ちえみつ、詩人の優しきほおにかわるがわる接吻くちづけして、安けく眠りたまえと言い言いで去りたり。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
党員達は胸先に十字を切つてハンスの行手の安全を祈りながら、交々その翼に接吻くちづけを贈つた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
イエスをわたす者かれらにしるしをなしてひけるは我が接吻くちづけする者はそれなり之をとらへよ。直にイエスに来りラビ安きかと曰て彼に接吻くちづけす。イエス彼に曰けるは、友よ何の為に来るや。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
南半球七月初旬のうららかな朝暾あさひを受けて微笑みつつ穏やかに美しく楽しげに、見果てぬ永遠の夢を語り合いながら接吻くちづけせんばかり相抱き合って、雨の中に眠っているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
呼吸いきは小刻みにハアハアいっているばかりだったが、彼女はそのの体にしがみついて、処嫌わず接吻くちづけをした——泥まみれになった哀れな頭に、血だらけの小さな顔に、それから
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
たとへば、海上の長旅を終つて、をかに上つた時の水夫の心地こゝろもちは、土に接吻くちづけする程の可懐なつかしさを感ずるとやら。丑松の情は丁度其だ。いや、其よりも一層もつとうれしかつた、一層哀しかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しみじみと身に染みるもの、油、香水、痒ゆきところに手のとどく人が梳櫛すきぐし。こぼれ落ちるものは頭垢ふけと涙、湧きいづるものは、泉、乳、虱、接吻くちづけのあとのおくび、紅き薔薇さうびの虫、白蟻。
第二真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私たちは、それから、お父様とお母様にお手紙を書いて大切なビール瓶の中の一本に入れて、シッカリと樹脂やにで封じて、二人で何遍も何遍も接吻くちづけをしてから海の中に投げ込みました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この男木作りかとそしる者は肉団にくだん奴才どさい御釈迦様おしゃかさまが女房すて山籠やまごもりせられしは、耆婆きばさじなげ癩病らいびょう接吻くちづけくちびるポロリとおちしに愛想あいそつかしてならんなど疑う儕輩やからなるべし、あゝら尊し、尊し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いなこれは、東雲の光だけではない、置き餘る露のたまが東雲の光と冷かな接吻くちづけをして居たのだ。此野菜畑の突當りが、一重ひとへ木槿垣むくげがきによつて、新山堂の正一位樣と背中合せになつて居る。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
花を墓に、墓に口を接吻くちづけして、きわれを、ひたふるに嘆きたる女王は、浴湯をこそと召す。ゆあみしたるのち夕餉ゆうげをこそと召す。この時いやしき厠卒こものありて小さきかご無花果いちじくを盛りて参らす。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し、その女は「天刑病者の接吻くちづけを受けた女」に似てゐた。
棣棠の心 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
驚きぬ日輪みれば紅熱ぐねつして向日葵ばなと接吻くちづけするに
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
岸破がばをどりぬ。そはなれが呻吟うめきの聲か接吻くちづけか。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
あはれ乙女は悲しげにわが接吻くちづけを許しけり。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
此の接吻くちづけを真実のためにうけてくれ
或る淫売婦におくる詩 (新字新仮名) / 山村暮鳥(著)
接吻くちづけ』のうましかをりきりごと
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
はげしき接吻くちづけを押して
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
接吻くちづけしつゝ投げし時
青春:献じる詩(牢獄にて) (新字新仮名) / 槙村浩(著)
かのあこがるゝ微笑ほゝゑみがかゝる戀人の接吻くちづけをうけしを讀むにいたれる時、いつにいたるも我とはなるゝことなきこの者 一三三—一三五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
……一度接吻くちづけをしてあげよう。お前はフラフラになるだろう。いいえ一呼吸いきをかけてあげよう。お前はフラフラになるだろう。……一呼吸なのよ! 一呼吸なのよ!
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いやこれは、東雲の光だけではない、置き余る露の珠が東雲の光と冷かな接吻くちづけをして居たのだ。此野菜畑の突当りが、一重の木槿垣もくげがきによつて、新山堂の正一位様と背中合せになつて居る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
御二人は燃えるような口唇くちびると口唇とを押しあてて、接吻くちづけとやらをなさるところ。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
早や飽きぬ、火炎の正眼まさめ、肉のゑみ、蜜の接吻くちづけ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼女はただ泣きながら大地に接吻くちづけをした。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
狂ひしよただ接吻くちづけのえまほしく
宿酔 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
消え行く接吻くちづけ。歯に噛む接吻。
接吻くちづけ」のうましかをりは霧の如
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「家のロドリゲスはね、エスビイナさん、本ばかり読んでいて、外で遊ぶことの大嫌いな子なんですけれど貴方がお友達になって下さったばっかりに、こうして元気で遊ぶようになったのですよ。いつまでも仲よく、お友達でいてやって下さいね」と結んだリボンに接吻くちづけしながら
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
我見るにかなたこなたの魂みないそぎ、たがひに接吻くちづけすれども短き會釋ゑしやくをもて足れりとして止まらず 三一—三三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いやいや燈光は、その男の額へ、接吻くちづけしている女の唇の初々ういうししい顫えをも照らしていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
愛の揺籃の中に温かき日に照され清浄の月に接吻くちづけされた児が、世によくある奴の不運といふ高利貸に、親も奪はれ家も取られ、濁りなき血の汗を搾り搾られた揚句が、冷たい苔の上に落ちた青梅同様
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
接吻くちづけにこそひにしか。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
接吻くちづけもなければ。
接吻くちづけ交す蛇苺
蛇苺 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
この人へ接吻くちづけをして上げよう。この人は嬉しがるに相違ない。妾がこの人を嬉しがるように。……まだこの人は童貞らしいよ。まだこの人は女子の肌の、胸から下を見ていないよ。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
接吻くちづけにこそ醉ひにしか。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
抱き樹に接吻くちづけしていふ
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
接吻くちづけせしめよ。
もしお望みでございましたら、—(以下八十五字抹殺)—妾の耳がよろしかったら、勝手に接吻くちづけなさりませ。あなたが見たいとおっしゃるなら、妾は妾の後れ毛を、前歯で噛んでお眼にかけます。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そらうみ接吻くちづけを。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
み空と海の接吻くちづけを。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)