拍子木ひょうしぎ)” の例文
それから、もう一つのついたことは、このくるまがいってしまってからまもなく、カチ、カチという拍子木ひょうしぎおとがきこえたことです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女とお延は最初顔を見合せた時に、ちょっと黙礼を取り替わせただけで、拍子木ひょうしぎの鳴るまでついに一言ひとことも口をかなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裏の銭湯で三助を呼ぶ番台の拍子木ひょうしぎが、チョウン! チョウン! と二つばかり、ゆく年のせわしいなかにも、どこかまだるく音波を伝える。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
拍子木ひょうしぎの音もきこえた。火の番の藤助という男がここへ廻って来たのである。三人がここに立ち停まっているのを見て、藤助も近寄って来た。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
首からひもで手さげ電灯をむねの前にさげ、拍子木ひょうしぎのひもも首にかけています。町内の夜まわりのじいさんらしく見えます。
塔上の奇術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
提灯ちょうちんを持って、拍子木ひょうしぎをたたいて来る夜回りのじいさんに、お奉行様の所へはどう行ったらゆかれようと、いちがたずねた。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて拍子木ひょうしぎって、まくがりますと、文福ぶんぶくちゃがまが、のこのこ楽屋がくやから出てて、お目見めみえのごあいさつをしました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
表通りで夜番よばん拍子木ひょうしぎが聞える。隣村となりむららしい犬の遠ぼえも聞える。おとよはもはやほとんど洗濯の手を止め、一応母屋おもやの様子にも心を配った。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
日が暮れるとあたりは全く田舎の村のように静になって、門外を過る按摩あんまの声と、夜廻よまわりの打つ拍子木ひょうしぎの響が聞えるばかり。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
戸を開けて恐る恐る外を見て私はためらった。ヒューヒュー風が吹いていて外はくらだった。遠くの方からかちかちと火の番の拍子木ひょうしぎの音が聞える。
... 小さく拍子木ひょうしぎに切って鳥の蒲鉾かまぼこのようなものへ添えます」客の一人「さぞ美味おいしゅうございましょう。外の料理人もにわとりを ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
竜灯りゅうとう拍子木ひょうしぎ松明たいまつ潮穴しおあな等、いずれもむかしは神力の霊妙作用によって起こりしように考えられたが、今日も同様の信仰を持っているものが多い。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そう云う内にもう一度、舞台の拍子木ひょうしぎが鳴り始めた。静まり返っていた兵卒たちは、この音に元気を取り直したのか、そこここから拍手はくしゅを送り出した。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いも助は鳥の尻尾しっぽを立てたるかごの如き形のかさかぶり、大きな拍子木ひょうしぎを携帯していた。しゃべる時、目を細くして頭を左右に打ち振るのが彼の特長であった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
木立のざわめきや、煙突のなかで風のうなる音がする。夜番の拍子木ひょうしぎの音。メドヴェージェンコとマーシャ登場。
その晩、半蔵は寿平次と二人まくらを並べて床についたが、夜番の拍子木ひょうしぎの音なぞが耳について、よく眠らなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「困った事になったなあ。自分達は頭を使わない商売だし、翌日昼寝でもしていればいいんだろうが、夜どおし拍子木ひょうしぎを叩いて歩き廻るのはかなわないぞ。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
音楽と劇の関係とか拍子木ひょうしぎの音楽的価値と舞台表現の関係とかいうような、興味深いお話が、それからそれへと尽きませんでしたが、私はただもううわの空で
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
晩のお支度が済んだ時でした、——酉刻半むつはん(七時)の火の番の拍子木ひょうしぎが通ったすぐ後だったと思います。
その間に、拍子木ひょうしぎは木ではあるが二本は互に必要といったような情合も生れ出たのでございましょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
諏訪すわじゃあこっちで斬りかけるとたんに、宿屋の奴や湯番の者が拍子木ひょうしぎなんぞ叩き廻って、弥次馬を呼んでしまったから取り逃がしてしまったが、人の絶えたもちの木坂
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸法師はそこで、ズボンのポケットから拍子木ひょうしぎを取り出し、それをチョンチョンと鳴らし
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
夜番と称してせっかく静かな雪の晩などに、間断なくどならせる、拍子木ひょうしぎをたたかせる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伴奏の楽器も亦いまのようにハモニカなんかではなくて、流しの声色やと同様に銅鑼どら拍子木ひょうしぎ。操る人は舞台の蔭に身を隠していて声だけしか聞えない。口跡もなかなか渋かった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
拍子木ひょうしぎの音が聞えるのは、流しを頼むので、カチカチと鳴らして、三助さんすけに知らせます。流しを頼んだ人には、三助が普通の小桶こおけではない、大きな小判形こばんがたの桶に湯をんで出します。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
股引ももひきようのものを穿いている、草色くさいろの太い胡坐あぐらかいた膝の脇に、差置さしおいた、拍子木ひょうしぎを取って、カチカチと鳴らしたそうで、その音が何者か歯を噛合かみあわせるように響いたと言います。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一同は提灯ちょうちんや懐中電灯を持ち、太鼓や拍子木ひょうしぎや笛を持って暗い山中へ登っていった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
貧乏な、御家人風情ごけにんふぜいではあっても、かく両刀りゃんこを差したあがりのおれが、水ッぱなをすすりながら、町内のお情で生きている夜番のじじいと一緒に、拍子木ひょうしぎをたたいたり、定使じょうづかいをする始末だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
夏は金魚を売ったり心太ところてんを売ったりして、無茶苦茶に稼いで、堅いもんだから夜廻りの拍子木ひょうしぎの人は鐘をボオンとくと、拍子木をチョンと撃つというので、ボンチョン番太と綽名あだなをされ
かつおぶしとかつおぶしとをたたき合わすと、カンカンとまるで拍子木ひょうしぎを鳴らすみたいな音でないといけません。虫の入った木のような、ポトポトしかいわない、湿っぽいにおいのするのはだめです。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「前にいた書生さんは、この高窓からばかりカチカチカカチなんて拍子木ひょうしぎを打つんでしょう、そりゃアおかしい人でしたよ。自分がこわいんで近所の野良犬のらいぬを五六匹も集めたりしていたンですの……」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
日傘ほどの大きな団扇で誰かがあおいでくれる——お金ちゃんのお父さんは首から拍子木ひょうしぎをかけていて、止るところや何かで鳴らした。火の用心と赤く書いてある腰にさげた袋から煙草タバコを出して吸った。
と、拍子木ひょうしぎの音がしたが、非常をいましめているのでもあろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拍子木ひょうしぎのかたき音きく夜寒かな 堇浪
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
夜番の拍子木ひょうしぎが聞える。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
拍子木ひょうしぎ 幕
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひるすこしすぎる時分じぶん、「カチ、カチ。」という拍子木ひょうしぎおとが、そのほうからきこえました。紙芝居かみしばいのおじさんが、子供こどもたちをんでいるのです。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちこちに夜番よばん拍子木ひょうしぎ聞えて空には銀河のながれ漸くあざやかならんとするになほもあつしあつしと打叫うちさけびて電気扇でんきせん正面まともに置据ゑ貸浴衣かしゆかたえりひきはだけて胸毛を
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
街道には旅人の往来もすくない、山家はすでに冬ごもりだ。夜となればことにひっそりとして、火の番の拍子木ひょうしぎの音のみが宿場の空にひびけて聞こえた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある民家にて夜中拍子木ひょうしぎの声が起こり、深更になるほど強く聞こえ、ことに雨の降る夜に多い。これを狐狸こりか化け物の所為と思ったために、妖怪沙汰ざたとなった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
合間合間には幕のうしろ拍子木ひょうしぎを打つ音が、まわされた注意を一点にまとめようとする警柝けいたくように聞こえた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜番の拍子木ひょうしぎの音。——テレーギン、忍び音に弾いている。ヴォイニーツカヤ夫人は、パンフレットの余白に何やら書きこんでいる。マリーナは靴下を編んでいる。
桜の花や日の出をとり合せた、手際のい幕のうしろでは、何度か鳴りの悪い拍子木ひょうしぎが響いた。と思うとその幕は、余興掛の少尉の手に、するすると一方へ引かれて行った。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ来かかった時に、むこうから拍子木ひょうしぎの音が近づいて、火の番の藤助の提灯がみえた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夢のような夜気に行燈かんばんの灯が流れて、三助奴すけやっこを呼ぶ紅葉湯の拍子木ひょうしぎが手に取るよう——。
気がつかぬに、さっきの若い軽業師が持って来たのであろう、三味線しゃみせんつづみかね拍子木ひょうしぎなどの伴奏が入っていた。耳をろうせんばかりの、不思議なる一大交響楽が、テントをゆるがした。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
娑婆しゃばの夜景にのびのびとして、雪踏せったを軽く擦りながら町の軒並を歩きますに、茶屋の赤い灯、田楽でんがく屋のうちわの音、蛤鍋はまなべ鰻屋うなぎやの薄煙り、声色屋こわいろや拍子木ひょうしぎや影絵のドラなど、目に鼻に耳に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慄然ぞっとして、げもならないところへ、またコンコンと拍子木ひょうしぎが鳴る。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拍子木ひょうしぎたえて御堀の蛙かな 一箭
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
拍子木ひょうしぎの打方を教うるが如きはその後のことである。わたしはこれを陋習ろうしゅうとなしてあざけった事もあったが、今にして思えばこれ当然の順序というべきである。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)