ひね)” の例文
たちま衣嚢かくしを探りて先刻のコロップを取出しあたかも初めて胡桃くるみを得たる小猿が其の剥方むきかたを知ずしてむなしく指先にてひねり廻す如くに其栓を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ただ秘密あれば従って符牒あり。彼とこれとは背と腹のごとし。両々相待ちて(彼の件)という物体となる。(なぞとひねる奴さ)
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虎ヶ窟の壁に文字もんじの跡が有るというのは、すこぶる興味を惹く問題であった。一座ことごとく耳を傾けると、塚田巡査は首をひねりながら
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
遊佐はひて微笑を含みけれど、胸にはひしこたへて、はや八分の怯気おじけ付きたるなり。彼はもだえて捩断ねぢきるばかりにそのひげひねり拈りて止まず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其処には夜が転がつてゐる。電燈の笠をとらへ、ボンヤリとスイッチをひねつたら、たわいもなく夜は窓外へ散つてしまつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
好奇ものずき統計家とうけいか概算がいさんに依れば小遣帳こづかいちやう元禄げんろくひね通人迄つうじんまで算入さんにうしておよ一町内いつちやうないに百「ダース」をくだる事あるまじといふ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
『あ、もう十二時がとうに過ぎて居る。』と云ツて、少し頭をひねツて居たが、『怎だ君、今夜少し飲まうぢやないか。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると、私はぐいとあの人の口をひねる。調戯からかはれるのだとは知りながら、それでも憎しみが力強く湧いて来る。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
其のわなへ入って能くノメ/\と文治郎の宅へ来たな、さア五十両の金を騙り取ろうなどとは申そうようなき大悪人、かく申さば立処たちどころひねり潰して仕舞うぞ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼はその帽子に最後の一とひねりを呉れた。それと同時に彼の手が緩んだ。そして、ようよう寝床の中へよろけ込むか込まないうちに、ぐっすり寝込んでしまった。
ひねり出したる書上の理窟を以て、万古不易の定論なりとし、之を実地に施行せんとするが如き、浅薄皮相の考にて、却て自国の国体歴史は、度外に置き、無人の境に
それ等の驚くべき出来事のすべてが、直接に君自身と関係を持った話であることが、殆ど電燈でんきのスイッチをひねるのと同様な鮮やかさで、一時に判明して来るであろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
案を払ひ香をひねつては謹んで無量義経の其中に両眼の熱光を注ぎ、兀坐寂寞こつざじやくまくたる或夜は、灯火ともしびのかゝげ力も無くなりてまる光りを待つ我身と観じ、徐歩じよほ逍遥せうえうせる或時は
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
予はただ笑止に思うに過ぎぬ。予はただここに一炷いっしゅの香をひねってこれを弔するに過ぎぬ。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
君、そうして廷丁が三人も居るんだよ。それで呼鈴よびりんと言うので、ちりりんとひねると、そのまあ、ちり、ちり、ちりん、の工合で誰ということが分ると見えて、その人がやって来ますね。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いったん消した電気をひねったり、鍵を掛けた扉をあけたりして、私を迎え入れた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
壮烈なるは匕首ひしゅふところにして不測のしんに入り、頑固なるは首陽山のわらびに余命をつなぎ、世を茶にしたるは竹林にひげひねり、図太づぶときは南禅寺の山門に昼寝して王法をおそれず、一々数へ来れば日も亦足らず
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
珍しいものだといって皆よっひねくって見ながら、如何どうだろうこれを日本にもっかえってさしてまわったら、イヤそれは分切わかりきって居る、新銭座の艦長の屋敷から日本橋まで行くあいだに浪人者にられて仕舞しまうに違いない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちょっとひねってここへ寝てみたい心持にでもなったのか
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「とは、また、酷くひねった……」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
なまぐさき油紙をひねりては人の首を獲んを待つなる狂女! よし今は何等の害を加へずとも、つひにはこの家にたたりすべき望をくるにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
むかしは菖蒲湯または柚湯の日には、湯屋の番台に三方さんぼうが据えてあって、客の方では「おひねり」と唱え、湯銭を半紙にひねって三方の上に置いてゆく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
縦令たとひ石橋いしばしたゝいて理窟りくつひね頑固ぐわんことうことの如く、文学者ぶんがくしやもつ放埓はうらつ遊惰いうだ怠慢たいまん痴呆ちはう社会しやくわい穀潰ごくつぶ太平たいへい寄生虫きせいちうとなすも、かく文学者ぶんがくしや天下てんか最幸さいかう最福さいふくなる者たるにすこしも差閊さしつかへなし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
その声に驚いて、次の間から看護婦が飛んで来てスタンドをひねっても、ただ、スタンドが天井に大きな影を投げているだけで、家の中は森閑しいんとして、深夜の眠りを眠っているだけなのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
歯医者は躊躇もじもじして、帽子をひねっておりましたが、やがてしおれて坐りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巡査がひげひねって、手続は万事おれがするから好いと云うのを、少しも疑わなかったのである。その頃松永町の北角きたずみと云う雑貨店に、色の白い円顔であごの短い娘がいて、学生は「あごなし」と云っていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
文治はハッと身をひねり、矢の来たあたりへ眼を付けて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ふむ。」と、市郎は首をひねって、「で、の𤢖という奴はんなものだね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
苦桃太郎にがもゝたらう冷笑あざわらひ、桃太郎もゝたらう風情ふぜい小童こわつぱ十人二十人、しらみひねるよりなほやすきに
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と暫く首をひねって居りましたが
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
持ち出してひねくりまわしているうちに、一本か二本ぬけて落ちたのを誰も気がつかずにいて、けさになって小僧どもが掃き出してしまったんでしょう。どうです、何かのお役に立ちませんかね
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はにはか躊躇ちゆうちよして、手形用紙を惜めるやうにひねるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
桃太郎風情の小童こわっぱ十人二十人、しらみひねるよりなお易きに
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
「どうです。ちがませんか」と、巡査は首をひねった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)