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恬
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てん
ふりがな文庫
“
恬
(
てん
)” の例文
西欧の文化国なら罪はわれわれ自身にあることが
夙
(
つと
)
に自覚されているのだが、わが国では罪を「赤鼻の獄史」に帰して
恬
(
てん
)
として恥じない。
チェーホフ試論:――チェーホフ序説の一部として――
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
国力のある限りな豪壮の美を押して国境へ出て行くのが常であったが——信長は、
恬
(
てん
)
として、そういう方式や虚飾にかまっていなかった。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかのみならずその旧主人とともに社会に立ち、あるいはその上に
位
(
くらい
)
して世の尊敬を受くるも、
恬
(
てん
)
としてはばかる色なきはなにゆえなるや。
徳育如何
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
最も奇とすべきは溝部で、或日偶然来て泊り込み、それなりに
淹留
(
えんりゅう
)
した。
夏日
(
かじつ
)
袷
(
あわせ
)
に袷
羽織
(
ばおり
)
を
著
(
き
)
て
恬
(
てん
)
として恥じず、また苦熱の
態
(
たい
)
をも見せない。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
それでその人倫の
紊
(
みだ
)
れて居ることはほとんどいうに忍びないほどの事もありますけれども、チベット人は
恬
(
てん
)
として
耻
(
は
)
じない。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
▼ もっと見る
自己の生活に濫して酒肉を買ひ、
傍
(
はた
)
に迷惑をかけても
恬
(
てん
)
として恥ぢないやうな、生若い似非デカダン、道楽デカダンには私は何時も
怖毛
(
おぞけ
)
を振ふ。
文壇一夕話
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
あるいは猛激粗暴なる
檄文
(
げきぶん
)
を投じ、あるいは
詭激
(
きげき
)
無謀なる挙動をなし、
恬
(
てん
)
としてみずから怪しまず、かえって志士の本色となすがごときはなんぞや。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
自分たちの境遇が変ると、
昨日
(
きのう
)
まで
軽蔑
(
けいべつ
)
していた人の
真似
(
まね
)
をして
恬
(
てん
)
として気の付かない姉夫婦は、反省の足りない点においてむしろ子供
染
(
じ
)
みていた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
天下に名を
為
(
な
)
したいということだけで目がくらみ、自家の
菲才浅学
(
ひさいせんがく
)
の如きを
恬
(
てん
)
として念頭におきたがらぬ。
青い絨毯
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
○己にはこの一人の難儀が骨身に応え、命を掻きむしるのだ。それに君は何千人かのそう云う人間の運命を、その嘲るような顔附をして見ていて、
恬
(
てん
)
として顧みないのだ。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
今の世には歳の暮になると料理屋の二階で忘年会とかいうものを開いて酒を飲み芸者を揚げ狂歌乱舞
顛倒淋漓
(
てんとうりんり
)
、野蛮人の状態をなして
恬
(
てん
)
として
愧
(
は
)
じざるものが沢山あります。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
そうして、「神武の
古
(
いにしえ
)
に
復
(
かえ
)
る。」と宣言した。「維新」と「復古」とは、まさに正反対の表言であるが、このような矛盾した宣言を、明治政府は、
恬
(
てん
)
としておこなったのである。
天皇:誰が日本民族の主人であるか
(新字新仮名)
/
蜷川新
(著)
又
其
(
そ
)
の
克畏
(
こくい
)
の
箴
(
しん
)
を読めば、あゝ
皇
(
おお
)
いなる上帝、
衷
(
ちゅう
)
を人に
降
(
くだ
)
す、といえるより、其の
方
(
まさ
)
に
昏
(
くら
)
きに当ってや、
恬
(
てん
)
として
宜
(
よろ
)
しく
然
(
しか
)
るべしと
謂
(
い
)
うも、
中夜
(
ちゅうや
)
静かに思えば
夫
(
そ
)
れ
豈
(
あに
)
吾が天ならんや
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
部下がストライキを起しても、新聞で嘲られても
恬
(
てん
)
として知らぬ顔で、あべこべに
盛
(
さかん
)
に熱を吹いて、「俯仰天地に
愧
(
は
)
じぬ」とか、「断じて市会議員を買収したおぼえはない」とか云っていた。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
元来
儂
(
のう
)
は我が国民権の拡張せず、従って婦女が古来の
陋習
(
ろうしゅう
)
に慣れ、
卑々屈々
(
ひひくつくつ
)
男子の
奴隷
(
どれい
)
たるを
甘
(
あま
)
んじ、
天賦
(
てんぷ
)
自由の権利あるを知らず
己
(
おの
)
れがために
如何
(
いか
)
なる弊制悪法あるも
恬
(
てん
)
として意に介せず
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
恬
(
てん
)
として既往を忘れたふりのできる
顕官
(
けんかん
)
連や、彼らの
諂諛
(
てんゆ
)
を見破るほどに
聡明
(
そうめい
)
ではありながらなお真実に耳を傾けることを
嫌
(
きら
)
う君主が、この男には不思議に思われた。いや、不思議ではない。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
すなわち実業家と称する人の中には自分の商売を進むるに
鋭
(
するど
)
く、その成功のためにはほとんど人倫を
紊
(
みだ
)
すも
恬
(
てん
)
として恥じざるのみか、かえってこれを誇りとするがごとき人をしばしば見受ける。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
と言って、
恬
(
てん
)
としてその金包を再び自分の手に納めた上に
大菩薩峠:11 駒井能登守の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「いつかは」と、法の威厳を示すべく誓っていたところ、或る折、またまた、国法をみだして、
恬
(
てん
)
としてかえりみないような一事件があった。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その泣き声は吾ながら悲壮の
音
(
おん
)
を帯びて
天涯
(
てんがい
)
の
遊子
(
ゆうし
)
をして断腸の思あらしむるに足ると信ずる。御三は
恬
(
てん
)
として
顧
(
かえり
)
みない。この女は
聾
(
つんぼ
)
なのかも知れない。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この輩が
不文
(
ふぶん
)
野蛮と称して常に
愍笑
(
びんしょう
)
する所の封建時代にありても、決して許されざりし不品行を今日に犯し、
恬
(
てん
)
として
愧
(
は
)
ずるを知らざるものなきにあらず。
日本男子論
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
破戒僧
(
はかいそう
)
の表裏 こういう
大罪
(
だいざい
)
を犯して
恬
(
てん
)
として
愧
(
は
)
じないところの人間がです、かえって虫を殺したり
虱
(
しらみ
)
を殺したりすることを大いに恐れてしないような事もあるです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
精神病者は自らの動物と闘い破れた敗残者であるかも知れないが、一般人は、自らの動物と闘い争うことを忘れ、
恬
(
てん
)
として内省なく、動物の上に安住している人々である。
精神病覚え書
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
一日
(
あるひ
)
侯は急に榛軒を召した。榛軒は
涎衣
(
ぜんい
)
を脱することを忘れて侯の前に進み出た。
上下
(
しやうか
)
皆笑つた。榛軒
纔
(
わづか
)
に悟つて
徐
(
しづか
)
に涎衣を解いて懐にし、
恬
(
てん
)
たる面目があつた。是が二つである。
伊沢蘭軒
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
アア堂々たる男子にして黄金のためにその心身を売り
恬
(
てん
)
として顧みざるの時に当り、女史の高徳義心一身を犠牲として兄に秘密を守らしめ、自らは道を変えつつもなお人のため国のために尽さんとは
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
恬
(
てん
)
として、いっこう、何のおそるるふうもなく、かえって秀吉の方が、さきにてれ
惑
(
まど
)
うほど、澄まして、見つめ返してくるのであったから、秀吉が
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
互を軽蔑した文字を
恬
(
てん
)
として六号活字に並べ立てたりなどして、
故
(
こと
)
さらに自分らが社会から軽蔑されるような地盤を固めつつ澄まし返っている
有様
(
ありさま
)
である。
文芸委員は何をするか
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
口語体の文においてもまた
恬
(
てん
)
としてこれを用いる。着意してあえて用いるのである。
空車
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
新聞だけが、それを行って、
恬
(
てん
)
として、恥じるところがないのである。
切捨御免:――貞操なきジャーナリズム――
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族に
出
(
いず
)
る者多しといえども、従来少しもその藩政に
嘴
(
くちばし
)
を入れず、旧藩地に
何等
(
なんら
)
の事変あるも
恬
(
てん
)
として
呉越
(
ごえつ
)
の
観
(
かん
)
をなしたる者なれば、
往々
(
おうおう
)
誤
(
あやまっ
)
て
薄情
(
はくじょう
)
の
譏
(
そしり
)
は
受
(
うく
)
るも
旧藩情
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
ありやなしやの薄いどじょう
髭
(
ひげ
)
の先に、鼻汁がかかった。
恬
(
てん
)
として、虚無僧はそれを拭こうともしないのである。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかも
恬
(
てん
)
として平然たるに至ってはちと
一噱
(
いっきゃく
)
を催したくなる。彼は万物の霊を
背中
(
せなか
)
へ
担
(
かつ
)
いで、おれの鼻はどこにあるか教えてくれ、教えてくれと騒ぎ立てている。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
恬
(
てん
)
として恥ずる者なし。
学問のすすめ
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
相手の知識を、
恬
(
てん
)
として無視し去ってしまう場合に、無智が絶対につよい。
生半可
(
なまはんか
)
な有智は誇る無智へ向って、
施
(
ほどこ
)
すに
術
(
すべ
)
がないという恰好になってしまう。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
文明の
今日
(
こんにち
)
なおこの
弊竇
(
へいとう
)
に
陥
(
おちい
)
って
恬
(
てん
)
として
顧
(
かえり
)
みないのははなはだしき
謬見
(
びゅうけん
)
である。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、占領範囲の
悉
(
ことごと
)
くを、既成事実として認めさせ、
一稼
(
ひとかせ
)
ぎの後は、
恬
(
てん
)
として、澄まし込んでいる
迅
(
はや
)
さの如きは、
蟇
(
がま
)
が蚊を呑んで
嘯
(
うそぶ
)
いているような横着さである。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
が、清盛は、
強
(
し
)
いて、
恬
(
てん
)
として、父へも母へも、虚勢を示しながら、また少しひざをすすめた。そして、叔父の忠正から借りてきた金を、無造作に、さし出した。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「ものの役に立たぬ奴じゃ、
恬
(
てん
)
として、恥とも思わぬ
面
(
つら
)
よな。祖先以来、事なき日にも、禄を与えておくのはなんのためと思う。そちはそれでも米を喰って生きている武士か」
鬼
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あまつさえ、笠置のあとも、吉田大納言定房だけは、
恬
(
てん
)
として、新朝廷に仕えていた。
私本太平記:06 八荒帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「くさすなくさすな。あれが人間の弱さじゃろ。——ひと事とせず、心得ておらねばならぬ。人もひとたび、心まで落ちぶれると、
味気
(
あじけ
)
ない
迂愚
(
うぐ
)
と
堕落
(
だらく
)
を、
恬
(
てん
)
として
辿
(
たど
)
るものではある」
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それのみか、
恬
(
てん
)
として
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“恬”の意味
《形容動詞》
(テン) (「恬として」の形で)平然として気にかけないさま。
(出典:Wiktionary)
恬
漢検1級
部首:⼼
9画
“恬”を含む語句
恬静
信恬
恬然
恬淡
恬澹
恬淡洒脱
恬然子
風恬
蒙恬
芳桜軒自安信恬
無慾恬淡
文恬
安恬
恬退
恬熈
恬惔虚無
依恬地
恬淡無碍
恬斎
恬憺